グレイトフル・デッドのビジネスモデルとレンタル事業の代償

もう言いたいことが山ほどありすぎて、逆に言いたくなくなるほどの、違法ダウンロード刑罰化。そして、ここに来てのリッピング違法化可決
この件はいろんなところで話題になっているので、敢えて細かく内容には触れませんが、それに付随するような話題をいくつか。

日本の音楽Web事情とグレイトフル・デッドの音楽ビジネス

いつの間にか「CD(レコード)=音楽ビジネスの主流」であるいう認識が固まっていて、「アーティストはCDを出すのが仕事」「好きなアーティストのCDを持っていないとファンじゃない」という風潮が出来たのも事実。本来CDは“音楽の入っているいちメディア”に過ぎず、本来売っているものはCDはなく音楽なんだということ。
アーティストは「例えファンが100人しか居なくともその100人が毎月1万円投資してくれれば成立する」わけだし、CDを売る事が本来の目的ではない。目先の売上よりも先ずは多くの人に楽曲を知ってもらうことのほうが大事だし、本当に評価されるべきものであれば対価はあとからやって来る。

Radioheadがリスナーが値段を決めてダウンロード購入するという手法を用いたことも良い例で。これで思い出すのがThe Grateful Dead(グレイトフル・デッド)というバンド。

「音楽は無料、ライブは録音OK、海賊版グッズなども自分たちの音楽を気に入ってくれて質の高いモノであればOK、どんどん広めてください」という、日本では考えられない方針ではあるが、音楽を楽しむという部分では本来のあるべき姿なのかもしれない。

グレイトフル・デッドのビジネスはソーシャルマーケティングのビジネスモデルとして近年、音楽市場以外で再評価されてきている部分がある。アーティストマーケティングなのに音楽市場で評価されていないのはどうかと思うのだが。

ただ、海外においてこのグレイトフル・デッドの精神が受け継がれているのか、土壌として根強くあるのか解らないが、そもそも海外におけるアーティストのライブは一般撮影OKであることが多い。その撮影されたもののクオリティが高ければ、宣伝効果の一つとしてアーティスト本人のオフィシャルに取り上げられることもある。本人のFacebookやTwitterで紹介されることにとどまらず、オフィシャルとして扱わられることも少なくない。とはいえ、アーティストが自身の動画チャンネル等を持っているのは当たり前だし、MVやライブ映像は勿論のこと、〈海外の一風変わったセッション動画〉で取り上げたようなメディアが発信する独自の動画も数多く存在する。ちょっと検索掛ければ有名・無名に限らず多くの動画が充実しているし、これは日本のアーティストではあまり例を見ないこと。近年のユーザーは気になるアーティストや楽曲があれば、オフィシャルサイトに行くのではなく、YouTubeに行く。そこで視聴することが出来ない場合、それ以上検索することもなく諦めてしまうことも多く、言わば顧客を見す見す獲得し損ねているとしか思えない。

とくに日本の音楽シーンが海外で注目されている昨今では、余程の海外展開を行っていない限り、日本の音楽に触れるきっかけはYouTubeを始めとする動画サイトが動向を知り得る最大の手段であるということ。一般ユーザーはもちろん、音楽を商売する側の人間であっても、YouTubeで新たな音楽に出会った経験は一度や二度ではないだろう。それがたとえアンオフィシャルな動画であっても。

違法ダウンロード刑罰法は別としても、日本のレコードに関する著作権・肖像権に関してシビアになりすぎている感が否めない。
法で縛ることも重要ではあるが、もっと大事なのは縛りつけるだけではなく、ユーザーのモラルや意識を底上げすることなんじゃないかとも思うのだが。実際何がOKで何がNGなのか解っていないユーザーも多い。寧ろその辺りをうやむやにしている感も否めない。

日本のレコード会社が配信やWeb関連に消極的なのは無料で試聴されてしまうということに抵抗があるのだろう。海外アーティストのようなSoundCloud等でリリース前のアルバムを全曲試聴、無料DLなんていうことはまず行わない。実際アーティストが視聴をやりたいと言っても、レコード会社が首を縦に振らないなんてことはよくある話だ。

こういう場合、CCCDの際もそうだったが「アーティストの権利を守ること」と口癖のように言っている。本当にそうならば、アーティストがレコード会社を移籍した際に、勝手に企画ベストアルバムを制作、なんてことはしないと思うのだが。これに関してはアーティストが前レコード会社に対して文句を言っている例も数多く存在しているわけだし。
契約上は何の問題はないわけだが、であるのならここに「アーティストの権利」は存在しないのか疑問符が残るところ。ビジネスなんだからキレイごと言ってないで素直に「自社の原盤を守りたい」と言えば納得できるのだが。

レンタル事業の代償

CDが売れない時代に目の敵にされているWeb事情とは裏腹に全く叩かれないのがレンタル事業。
冷静に考えてみれば、一番CD売上に影響を与えているのはレンタルなんじゃないかとも思えるわけで。CD小売業最大大手のタワーレコードが全国91店舗に対し、レンタル最大チェーンのTSUTAYAは1400店舗、販売店舗もあるとは言え、比べる余地もない。
実際CD売上のように具体的な数が提示されているわけでもないので、何とも言いがたいところではあるが。

CDレンタル事業というものは世界でも日本でしか行われていない。
そもそも1980年に“貸しレコード屋”として発端したと言われるこの事業、当初はユーザーのカセットテープへの録音問題が取り沙汰され、著作権侵害による民事訴訟になった経緯もあるのだが、日本のレコード会社は殆どがオーディオメーカー。結局は当時普及しつつあった、ラジカセ、ウォークマンなどの録音機器の需要が見込めるということで84年に合法化。つまり悪く言えばアーティスト作品としての知的財産(著作権)、ソフト(レコード)よりもハード(オーディオ機器)の売上を取ったということ。もちろん、レンタルに関する印税は発生するのだが。

片や海外のレコード会社はオーディオメーカーと一切関わりがないため、そんな発想には至っていない。そもそもレコード・CDというソフトメディアよりも中身の音楽を芸術・知的財産としての国家産業と捉えている海外では、日本のレンタル事業によって自国の知的財産が侵害されているとして、レンタル禁止期間を50年にするようにという動きも未だにある。

そのレンタルの恩恵を受け、高速ダビングなどの多機能ミニコンポブーム、細かい分数刻みや音質に特化したカセットテープからMDへと録音機器・メディアが発展。(日本ほどカセットの種類が豊富な国はないし、特にMDというメディアはレンタルによるダビング目的に特化されたメディアであり、実際ダビング需要のない海外ではほとんど普及していない)
そこまでは良かったものの、PCによるリッピングが主流となると、ハード売上の恩恵も受けられなくなり、それでPCで再生出来ないCCCDのようなモノを作ったという本末転倒という話。

このような経緯があるので、レコード協会はレンタル業を責めることが出来ないというのが今の状況。

個人的にはレンタルにはお世話になっているし、一つの事業として音楽業界に貢献しているのも事実。
なので闇雲にレンタル事業を批判するつもりもないのだが、ただ、本気でCD売上を考えるのであれば、現状の“発売日から約2週間でレンタル解禁”というのもどうかな、と思うところはある。単純に考えれば初動売上には影響ないとは思うが、発売日やフラゲ日に手に入れたいのは一部のコア層でしかないわけで、一般的に見れば「レンタル待ち」という層が多く居るのも事実。ちなみに2曲以下のシングル(カラオケVer.などは除く)は発売日にレンタル解禁。つまり発売日レンタル解禁を回避して初動でシングル売上を伸ばしたいのなら、c/w含めて3曲入れれば良いということになる。
販売には再販制度というものがあるが(実際にはDVD付けて再販制度の穴をつついた値引き競争が殆どだが)それなら、レンタル保護期間を海外新譜(今は1年)のようにもう少し延ばすこともありなんじゃないかとも思える。

無料DLや視聴は気に入れば購入に至る宣伝になっても、レンタルは借りてみて気に入っても購入には至らないわけで。

* * *

結局のところ音楽産業の対象自体が趣味趣向の範囲でしかないわけで、好みも千差万別。“万人受け”という解りやすさを追求した落とし処はあるにせよ、100人中100人満足させられるような作品を造ることは出来ない。
音楽市場におけるCD需要の相対性が下がっていることは紛れもない事実であるけど、それを単に価値が下がったという発想も安易すぎるわけだし、今も昔もCD/レコードは音楽を売るための一つの手段にしかすぎないのは変わっていないこと。
実際、コレクター主義のCD愛好家が居なくなることは考えにくいわけだし、初動160万枚動かせるAKBのような売り方が生まれたのも方法論の一つとして決して間違いではないと思う。音楽を売る、提供側としてはいかにユーザーを巻き込む、虜にさせることのほうが大事だし、ユーザーはもっと単純に音楽を楽しむことが出来たほうがいいわけで。

本来、音楽ってもっと気軽に演奏したり聴いたり出来るものだと思うんだけどね。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ
デイヴィッド・ミーアマン・スコット、ブライアン・ハリガン
日経BP社
Release: 2011/12/08

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