ゴスとポジパン「このニューウェーヴに乗るしかない」の巻 - ジェイロック回顧主義 #1.5

──東京女子流のMVがゴシックだとか、ぱすぽ☆がジャーマンメタルだなんて書いてましたけど、あのAKBまでゴシックなんですけど!

見ましたよ、完全にゴシックですね。禁断のアイメイクまでやってる、女子流でさえ顔は何もしなかったのに!

ただ、ちょっとどうしても制服に見える衣装が残念な気がしますが。どうせやるならもっとゴシック調にすべきなのに。そこは譲れないのかな。

──それにしてもアイドル組がこぞってゴシック意識とは、流行ってるんでしょうかね?

SUPER☆GiRLSの『赤い情熱』もゴシックじゃないけど、硬派なナンバーですね。闘牛士マタドール風衣装いいなぁ、水着とかよりこういうほうがいいですね。『女子力←パラダイス』もそうだけど肩当て付き軍服大好きです。

──えーと、ゴシックの話題が出たところで今日は予定を変更してゴシックの話を、、、

いや、だから肩当て軍服だって中世ヨーロッパですから!ゴシックファッションですよ!

──それはそうなんですが、、、前回の記事踏まえてゴシックってそう言えば曖昧な知識だなと。何となく定義、そこは解ってるつもりでも説明しろと言われたら困るという人が結構いるんじゃないかと。実際そういうメールも頂きまして。本来ゴシックの話はもっと後にするつもりだったのですが、今日はもっと根本的な部分、ゴシックの時代背景や予備知識的なことを聞きたいと。そこが解れば今後の話も進めやすいと思うんです。ハロウィンも近いし。

はぁ。

ゴシックロックは非現実的な世界観、幻想や神秘性から影響を受けている

──まずゴシックの成り立ち、歴史的背景の話から。

そもそもゴシックとは〈ゴシック様式 “Gothic Style”〉とよばれる、中世12〜15世紀の西ヨーロッパで生まれた美術形式のことです。ただ、近年は〈ゴシック “Gothic”〉、〈ゴス “Goth”〉と略す場合を含め、80年代のイギリスから始まったゴシック・ロックと、それに付随するファッションを含めたサブカルチャーを指すことが多い。比較的新しめではあるけど、多様性と発展を含め世界で一番浸透し、同年代に生まれたものの中では一番長く続いている文化だと言われています。ここでいうサブカルチャーは日本のそれとは違います。西洋におけるサブカルチャーとは、「上流階層のハイカルチャーに対する大衆文化」と言う意味ですから。

──その美術形式を音楽、ロックに表したのがゴシックロック?

それは微妙に違うんですよね。元々ゴシックは〈ゴート族の様式 “la maniera gotico”〉というのが語源。ゴート族とはゲルマンの一部族です。ただ、ゴシック様式・美術の源流とされる〈ゴシック建築〉はフランスが発祥なので、本来はゴート族とは一切関係ないんですが。15,6世紀のルネサンス期、欧州人のローマ帝国の滅亡の恨みは根強く、ローマ滅亡に大きく加担したゴート族を野蛮だと軽蔑するのに“ゴシック”という言葉を使った。古典芸術を破壊した蛮族が作る芸術建築を“ゴシック建築(Gothic Architecture)”と罵ったわけです。

──ルネサンス期というのは古代ローマ・ギリシアの回帰ですもんね。

中世ヨーロッパ〈暗黒時代〉、ゴシック建築は蔑まれ、〈ゴシック・サヴァイヴァル〉と呼ばれる時代が長く続くんですが、18世紀後半のイギリスでゴシック建築の再評価、再興運動〈ゴシック・リヴァイヴァル “Gothic Revival Architecture”〉が始まる。そんな中、ゴシック小説と呼ばれる中世懐古の小説が流行るんです。そこで生まれた有名なゴシック小説と言えば『ドラキュラ』『フランケンシュタイン』『ジキル博士とハイド氏』、、、誰もが知ってる、ホラー/SF小説の源流とも言える作品です。そしてのちの1970年代後半のイギリスで、これらの小説の世界観を音楽やファッションに取り入れるバンドが出てくるようになった。それがゴシックロック。だからゴシックロックはゴシック芸術よりもゴシック小説の非現実的で退廃的な世界観から影響を受けている部分のほうが大きい。ゴシックロックの代表格とされるバウハウス(BAUHAUS)がバンド名をドイツの芸術機関・BAUHAUSから取ったり、ヴォーカルのピーター・マーフィー以外の3人は芸術学校に通ったりしていたので、芸術方面との関連性を混同しがちだけど、そっちはあまり関係ないと思います。

──日本でゴシックロックと言えば、バウハウス(BAUHAUS)の影響を挙げてるバンドが多いと思うんですが、バウハウスがそのシーンのパイオニア的存在なのでしょうか?

〈ゴスの帝王・バウハウス〉ですから日本だけじゃないです。ただ、パイオニア的な部分を見ると70年代後半あたりからゴシックロックのムーブメントはあって。セックス・ピストルズ、クラッシュと並んで〈ロンドン3大パンク〉に挙げられるダムドのデイヴ・ヴァニアンは早くからファッションやメイクにもゴシック要素を取り入れていたし。ピストルズの親衛隊だった女性、スージー・スー擁するスージー・アンド・ザ・バンシーズ(Siouxsie & the Banshees)、ニュー・オーダーの前身バンドであるジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)、このあたりが源流と考えるのが妥当かと。

1981年2月21日付けの『UKロックウィークリーサウンズ』という雑誌で、そんなムーブメントの中に居たUKディケイ(UK Decay, 1978-83, 2008年本格再結成)のことを“The face of Punk Gothique”と評している。ゴシックとロックの結びつきをメディアが評したはじめての事例。“Gothic”ではなく、“Gothique”なのは、先に述べたように、ゴシック美術はフランス発祥ということでフランス語表記なんだと思います。なんでこんな細かい日付まで解るのかと言えば、UKディケイが自分たちのサイトで当時の記事を上げている(苦笑)。

 

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──嬉しいですよね。中世から続く芸術と同等に自分たちの音楽が認められたとも言えるわけですから。

バウハウスはあくまで“自称・ゴシック”だったので、UKディケイが自慢するのもわかります(笑)。バウハウスは1979年に『Bela Lugosi’s Dead(ベラ・ルゴシの死)』という楽曲でデビューする。楽曲も世界観もゴシックなんだけど、このタイトルにもなってるベラ・ルゴシという人、ハンガリー生まれの俳優で、先述のゴシック小説、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』の初の映画作品『魔人ドラキュラ』(1931年)でドラキュラを演じた俳優なんです。つまり、ゴシックと自分たちの音楽の関連性を宣言したんです。だからバウハウスの登場をゴシック・ロックの幕開けだと言う人が多いのはそこですね。それに、スジパン(Siouxsie & the Banshees)もバウハウスと同期のキュアーも音楽的に変化していくし、ジョイ・ディヴィジョンは1980年にヴォーカル、イアン・カーティスの死を以って解散しちゃうんだけど、バウハウスは83年の解散まで音楽性を貫き通したってのもあります。やっぱり影響力考えるとバウハウスが圧倒的。

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──『魔人ドラキュラ』、気になって調べてみたんですけど。今月末にリマスターDVDも出るようです。

これ、日本人が思うドラキュラ伯爵像そのまんまなんですよ、だって『ゲゲゲの鬼太郎』のドラキュラも『怪物くん』のドラキュラもこのベラ・ルゴシのドラキュラがモデルなんです。鼻が高くて、つり目で、口が大きくて、髪形はオールバック、黒スーツに黒マント。原作だとちょっと違う。

──ホラー映画としてもパイオニアです。

ホラーと言っても、今の時代のホラー映画とは違いますから恐くはないです(笑)

 

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ポジティブ・パンクは中二病ってことで

──ゴシックと並んでキーワードになるのが“ポジティブ・パンク”。これ解りにくいですよね、パンクなのにポジティブ。

パンクの音楽というのは、基本3コードを主体とした単純なもの。ロックも3コード主体のものも多いですが、パンクはロックの持つブルース要素を一切排除した形。これに民族音楽やファンク要素を取り入れ、ダンスミュージックに近くなったものを“ポストパンク”と呼ぶようになりました。ここでいう“ポスト”とは“後継者”の意。ポストロックは「ロックの再構築」という意味なので、同じポストでも意味が違うんです。このポストパンクの中で生まれたのがゴシックロックなんです。そもそもパンクって社会への反抗から生まれた背景があるじゃないですか。でもゴシックロックのバンドにはそういう要素がないんですよ、芸術方面からの影響下ですから。サウンドは攻撃的な部分もあるんだけど他者へ反抗という思想がない。どちらかというと魅せ方の部分ですね。己の美学、独自の世界観にこだわりを持っている。

──そこはゴシック小説の、オカルト的な非現実的世界観からの影響ですね。

変身願望、妄想僻もあるんでしょう。盛り上がりを見せるゴシックロックシーンで、Specimen(1980–85, 2005年再結成)というバンドがロンドンでバットケイブ(Batcave)というクラブイベントを定期的に開催していて。イギリスの音楽雑誌NME(ニュー・ミュージカル・エクスプレス)はそのムーヴメントを〈ポジティブ・パンク〉と呼んだんです。反社会的でメディアを敵視していたパンクを“ネガティブ”と捉え、対し、芸術寄りでメディアに友好的でもあったバンドを“ポジティブ”と評した。だからべつに「上を向いて歩こう」のようななポジティブシンキングを歌ってたわけではないです。

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──むしろゴスは自虐的な側面がありますよね。

そこなんですよ、『ドラキュラ』にしても悪役なんだけど悪になり切れていない部分があるじゃないですか。十字架、日光、にんにく……、何気に弱点多いし、いつもどこかで苦悩してる、悲しきヒール。ゴシックは反抗がないと言ったけど、倒すべき明確な敵がいないんです。どちらかといえば自分と戦ってる。己との葛藤というか、誰しも一度は考えた「明日の朝目が覚めたら地球上に自分一人しか居なかったらどうしよう」みたいな、考えてもどうしようもない中二病で捻くれた末の不安とか。ナルシストと自己嫌悪は表裏一体です。日本ではのちに“鬱ロック”なんて言葉も出来ましたけど。そら、清春もステージで首吊るわー。

──何か話がものすごい飛躍してる気もしますが、、、まぁ、言いたいことは解るような(汗)

ポジティブ・パンクは中二病ってことで(苦笑)

──ポジパン御三家なんてのもありましたけど。

Southern Death Cult, Sex Gang Children, The Danse Societyの3バンドですね。これ、海外でも“3大バンド”扱いなのか謎なんですけど、御三家というネーミングからして日本臭がするし、由来が曖昧なんですけど。Southern Death CultはのちのThe Clutだし、Sex Gang Childrenはインパクト強いんだけど、The Danse Societyがこの括りに入っているがイマイチよく解らないんですけど。シンセ、ガンガン入ってるし、いちばん革新的だけど異端。

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色んなゴスがあるという解釈でいいんじゃないかと

──このゴス・ムーブメントは日本にも入ってくるわけですが、実際にロンドンでバウハウスを観たジュネが感銘を受け、AUTO-MODを始めるんですよね。

あとはイギリスの音楽をプッシュしていた雑誌FOOL’S MATEの創設者、北村昌士氏の創ったトランス・レコード。なんだかレーベル自体よりもその女性ファン“トランス・ギャル”のほうが有名な気がします。

──ナゴムレコードの“ナゴム・ギャル”と対象的に扱われてる場合が殆どですけど、現代のバンギャルの始祖とも言われている。

いや、自分もそうだと思ってたんですが、栗山千明主演『GSワンダーランド』という映画がありまして。グループ・サウンズブーム時代に日劇を目指すバンドの話なんだけど、そこで所謂“追っかけ”の女の子たちが「売れる前の自分だけのバンドを見つけるんだ」みたいに奔走してるんですよ、まぁ、バンドブームやV系に倣って脚色してる部分もあるんだろうけど、「もしや?」と思って調べて見たら当時の雑誌に「GS追っかけギャルのファッションは!?」みたいな記事がたくさんあった。当時からKERAみたいなことやってたんだなぁと(笑)。今でもキャプテンズは自分たちのファンのことを“追っかけギャル”と呼んでるらしいです。

──日劇が日本青年館みたいな感じですかね。まずは新宿アシベの出待ちから始まる。

大貫憲章もGSの追っかけやってたらしい。ユーミンもやってたという話だから、ユーミンがバンギャで憲章さんがギャ男の始祖かもしれん。

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──それは濃いなぁ。ナゴムも文学的要素ありますよね?

ナゴムはオーケンの影響力が強いでしょう。だからナゴムギャルは鞄に江戸川乱歩を忍ばせてるんですよ。トランスギャルはジョルジュ・バタイユと澁澤龍彦。ナゴムギャルは中野ブロードウェイに行くけど、トランスギャルは渋谷LOFTのフランス文学コーナーに入り浸る。共通点は寺山修司かなぁ。

──そのあと黒服バンド、V系黎明期のバンドが出てくるわけですが。

「おれたちがポジパンだ」とハッキリ言ってたのはZi:KILLですね、D’ERLAGERは“サディスカルパンク”と言っていたし。でも、リアルで本家のゴス・ポジパンの洗礼受けた人たちはそういった日本のバンドを受け入れられなかった部分もあると思います。逆にそうした黒服バンドからゴス・ポジパンに興味持った人も多いと思うけど。ただ、BOØWYやBUCK-TICKから来た人はバウハウスやAUTO-MODを初めて聴いたとき「これがゴス?!」とか思ったかと(苦笑)

──それは前回でも触れたBUCK-TICK『惡の華』が作り上げたゴシック像?

だって、黒服系って基本は歌謡曲ベースの歌モノじゃないですか。バウハウスやAUTO-MODは歌モノじゃない。やっぱりそこは大きいですよ。でも、雑誌もそうだけどアーティストが自分の源流を紹介してリスナーの耳を鍛えて行く、って大事ですよね、Zi:KILLはギターのKENがね、この辺りのブリティッシュロックに非常に精通していて、雑誌でやたら語ってました。そういえば、XのHIDEが「ポジパンでは何が好き?」という質問で「おれはこれはポジパンだなんていちいち考えて聴いてねぇ!」って半ギレしてた(笑)。ゴシック以上に形骸化してしまった言葉だよね、“ポジパン”って。

──そして、90年代に入るとゴシックロックにも変化が出てきますよね。

インダストリアルロックがもろに入って来ますね。それこそ、“ヴィジュアル系”ブームしかり、海外ではマリリン・マンソンみたいなアーティストも出てきた。音楽ではないけど、2000年代になると“ゴスロリ”なんていうある新しいジャンルも出てきた。日本では「ゴス=ゴスロリ」だと思ってる人たちも居るでしょう。ここまで来ると、ゴシックの定義はよく解りづらくなってきますよね。でもそれでいいんですよ。そもそも文化なんだから、発展していくものだし、ジャンルとして狭めることはないです。いろんなゴスがあるという解釈でいいんじゃないかと。
 

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補足:もしこの記事を読んでくださってる方でゴス・ポジパンに興味を持った方、もしくは懐かしいから聴き直したいなぁなんて思った方、『Gothic Rock – the Ultimate Collection』という素晴らしい最強コンピレーンションボックスセットが出ております。バウハウスやポジパン御三家、UK DECAY、Specimen、、、これさえ抑えればゴスが解るくらいの充実ぶり、驚異の5枚組2800円。記事末にAmazonのリンクを張っておきますが収録曲が載っていないので、内容知りたい方は下記レーベルサイトを見てみてください。

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