弾かない人にも解る? J-Rock/V-Rockにおけるギターサウンド解説

何を以てしてロックのジャンルを分類するかは難しいところではあるが、なんだかんだ大きく占めるのはギターサウンドであることは紛れもない事実。バンドの花形でもあり、楽曲の色を大きく彩るサウンドの要だ。

そんな“ロックの顔”ともいうべき、エレキギターであるが、この70年近くの間、発達しているようで実は発達していない。エレキという名でも実はもの凄くアナログな楽器。だが、その反面、ここ20年あまりで、録音機材は発達した。コンピューターなどの導入によりそれを取り巻くレコーディング環境は変化し、ギターという楽器自体はそのままにサウンドの多様化が進んだ。特に打ち込みなどの電子音とギターの絡みという部分においての変化は興味深いところ。ロックンロールやブルースといった普遍的なロックギター像が存在する反面、そうしたギターサウンドが大きく変わっていったジャンルがある。日本におけるJ-Rockであり、ヴィジュアル系であり、ラウドロックである。

ギターを弾かない人でも色んなバンドを聴くような音楽ファンであれば、「この人のギタープレイが好き」「このギターの音が好き」などがあるはず。だが、専門知識を含め、意外と知らないギターのことがあるはずだ。そこで、ヴィジュアル系〜ラウドロックを中心に〈ギターを弾かない人に捧げるギターサウンド解説・愉しみ方〉みたいな部分を少し紐解いてみる。サウンドの構成要素を知ることによってバンドサウンドがより楽しくなるし、好きなギタリストの発言が少し解るようになるかもしれない。

電気楽器と電子楽器

デジタル楽器と呼ばれる、シンセサイザーやデジタルピアノなどは電子楽器(エレクロニック:Electronic)に分類される。予めプリセットされている音色を発信装置(ボタンや鍵盤)を使って音を出すシステムだ。かたや、エレキギターは電気楽器(エレクトリック:Electric)である。アンプがないと音が出ない。これは弾いた弦の音を“ピックアップ”と呼ばれるマイクが拾ってるだけであり、電子楽器のように自己完結できる楽器ではない。つまり、声をマイクで拾ってることと同じ原理であり、音質の微調整は出来ても様々な音色のバリエーションはない。ギター本体の振動音をピックアップが拾い、アンプで増幅させているだけであるため、本質的な音はギター本体の鳴りが決めているのである。であるから、ギター本体が木で出来ており、木材の種類や構造による影響が大きい。またヴィンテージや高級ハンドメイドなどが持てはやされる所以でもある。安いギターはそれなりの音しか出ない。ただ、「安い音」が必ずしも「悪い音」とは言えないのがギターの面白いところ。

アンプではなく、“ライン”というサウンド

現在は家庭用ミニアンプやマルチエフェクターに代表されるような家庭でも気軽に本格的なギターサウンドを出せる様々な機器があるが、昔はそこまでのものはなく、更には情報も少なかったがために「レコードで聴けるような音が出ない」と悩ませたギターキッズたちが多くいた。ロックの醍醐味、ディストーションサウンドが出ないアンプも当たり前のように多かったし、ギターは買えてもアンプが買えない、下手をすれば「アンプがないと音が出ない」ことを知らないなんてことも少なくはなかった。なので、家にあるステレオやラジカセに繋いでいたという人も多かった。

ステレオやラジカセに繋いでも音は出る。ただ、ギターアンプのような温かみはなく、ただ、音が出ているだけのようなチープな音だ。ただ、このチープさを逆手に取る場合もある。P-MODELの平沢進は「アンプの音が嫌い」といい、アンプを使用しないで直接卓に突っ込む“ライン入力”でライブを行う。Nine Inch NailsやLinkin Parkのライブもアンプを使用しないことも多い。アンプによる温かみのある音を排除することによって、あえてのデジタル臭さ、無機質感を出すのである。

最先端ギターサウンドだった 布袋寅泰

日本において、アンプを使用しないギターサウンドの第一人者として有名なのが、布袋寅泰だ。BOØWYにおいて多彩なギターサウンドを提唱した布袋は初のソロアルバム『GUIATRHYTHM』(1988年)において、コンピューターとロックの融合、後年のデジロックの礎を築いた。打ち込みはもちろん、ギターも全編アンプを使用しないライン録音で行われている。ギターサウンドをソフトウェアで作り込める現在では珍しくはない手法だが、「Macintosh(Macではない時代)」すら浸透していなかった時代を考えれば、革新的な試みであったことは言うまでもない。ラインの無機質なギターサウンドは布袋ギターの得意とするカッティングとタイム感との相性は抜群で、よりソリッドさを研ぎ澄ましている。

GUITARHYTHM
布袋寅泰
EMI
Release: 1988/10/05

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無機質ギターの極み ISHIG∀KI (THE MAD CPSULE MARKET’S)

無機質ギターサウンドの極みといえば、THE MAD CPSULE MARKET’Sだ。同期などのデジロックな印象も強いが、初期のコンピューターを導入する前から、スネアドラムにディストーションをかける、打ち込みを使用せず、サンプラーで予め用意した音をドラムパットで呼び出して鳴らすなど、人為的に無機質でノイジーなサウンドを極めてきたバンドである。アルバム『CAPSULE SOUP』(1992年)ではギターに声を混ぜる、ギターコードを6本同時に鳴らすのではなく、一本ずつ録音し、それを同時再生することによって、敢えてピッキングニュアンスなどを無視した発信機的なギターなど、一度聴いたら忘れられない狂気のギターサウンドである。

CAPSULE SOUP
THE MAD CPSULE MARKET’S
ビクターエンタテインメント
Release: 1992/07/22

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Pro Tools(プロ・ツールス)って?

現在のレコーディング環境における主流となっているのが、Pro Tools。それまでアナログテープで録音していたものがハードディスク・レコーディングとなり、さらには録音した音源を波形編集する、そして最終的なミックスダウン。それらを一手に引き受けるデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)のソフトウェアがこのPro Toolsである。90年代後半に一気に普及した。

Pro Toolsの登場により、レコーディングにおける利便性は格段に飛躍した。今までは録音されたフレーズの一部分だけ差し替えたい場合などは、その箇所に来たら〈録音ボタン/停止ボタン〉を押す(“パンチ・イン/アウト”)などの人為的技術が必要だった。音数の少ないフレーズならいざ知らず、テンポの速いフレーズなどは、録音を押すタイミング、そして如何にそのつなぎ目を違和感なく処理するところがレコーディング・エンジニアの腕の見せどころでもあった。だが、Pro Toolsの登場でそれらが容易に細かくできるようになった。更には波形によるコピー&ペースト、繰り返しなどのフレーズは一度弾いてしまえばいくらでもペーストできる。弾きムラなどを気にすることもなくなったのだ。レコーディング作業の効率化とも言えるが、それらの細かい編集はさらにアーティストの完璧主義探求を呼ぶことにもなっていく。

Pro Toolsに付随するところでもあるが、エフェクターやアンプなどの機材をモデリングしたシミュレーター、プラグイン・ソフトウェアも普及した。ギターがメーカーによって様々な音色があるように機材も同等。色々な音色を試したいが、様々なギターアンプを用意することは場所や運搬含め容易なことではない、それらをデスクトップ上で実現させるのがこのプラグインでもある。

この〈Pro Tools+プラグイン〉は、ミックスダウンをするというミキサー卓の機能もあるため、レコーディングだけではなくライブにおいても導入されることもある。先述のNINやLinkin Parkはライブでもギターをラインでプラグインによる音作りを主体とする場合が多い。アンプを置かなくとも済むスタイリッシュなステージセットや、何よりも機材の簡素化、電圧やトラブルに見舞われないメリットは大きいだろう。ワールドツアーなどでは機材運搬に掛かる膨大な費用も節約される。ただ、エレキギターの醍醐味でもある爆音で豪快に鳴らす心地よさはない。一長一短である。

ギターレコーディングの主流となっている、“リアンプ”とは?

現在多くのギターレコーディングの際、取られている手法がリアンプである。
本来は周波数的にまとまりづらい、ベースの低音をしっかり出すために、ラインの音とアンプの音を混ぜる手法として取られる方法であったが、Pro Toolとともにギターレコーディングで使われる手法になった。

1)ギターをアンプに繋がず、PCに直接ライン録音する
2)その録音した音源をアンプから流し、レコーディングする

メリットとしては、プレイと音作りを全く別で考えられるということ。レコーディングしてみて聴いたら、ちょっと音色が… と思ったときに改めて弾き直す必要もなく、同じフレーズを様々なアンプや音作りで客観的に試せる。ギタリストにとってもエンジニアにとっても効率の良い手法だ。更には自宅で心置きなく録音作業を行い、スタジオではリアンプで音決めをするだけという、限られたスタジオ利用時間の有効活用ができる。

だが、一見良いことづくめに見えるこのリアンプ作業だが、デメリットもある。

リアンプがもたらした大罪

「ヴィジュアル系が苦手」というロックファンが多いことは紛れもない事実だろう。その一つに「みんな同じに聴こえる、サウンドの無個性さ」というのが上げられる。それはこの「リアンプによるギターサウンド」というのが一つに理由になっている節も否めないのだ。別に「リアンプのサウンドだから、」といって嫌っていることはないだろう、というよりも、このギターがリアンプかどうかなど余程の知識がないと解らない。ただ、「ギターとして面白みのないサウンド」はリアンプに多いのが現実なのだ。実際、現在どのジャンルよりもヴィジュアル系バンドの多くがこのリアンプによるギター録音を多く導入している節がある。

先述の通り、エレキギターはアナログの楽器であり、アンプがあってこそ成立する楽器。つまり、アンプを通した音を前提として音作りとプレイを行い、それをフレーズとして成立させる、それが「自分の音」なのである。であるから、プレイと音決めを完全に分けてしまうリアンプは、右手のピッキングの強弱や、体全体でのけぞるようなチョーキングを交えたエモーショナルなプレイというようなニュアンスが出ない。何よりもアンプから出てる音を体感しながらプレイをする、という空気感が全くなくなるのである。ライン録音されたギターフレーズはあくまで音程と音の長さを信号としてインプットされているだけで、フィーリングは伝わりづらく、ギターの種類による音色変化というものも、それほど影響しない。音の壁で埋めるようなラウドロックサウンドには適しているが、フィーリングを伝えるようなブルースなどのプレイには向かないのである。奇をてらったはずの無機質感は、利便性を重要視すると一歩間違えば、無個性になり得るのだ。

であるから、逆に言えば誤魔化しが可能なのだ。ギターの醍醐味でもある、ちょっとしたピッキングノイズ、カッティングのニュアンスやタイム感といった右手のコントロールが厳かになってしまう。そして、自宅で納得が行くまで録音出来ることは、限られた時間で作品を作るというプロのプレイヤーとしての意識を削ぐことにもつながる。利便性を重視するあまり、新人バンドでもこのリアンプが導入されるため、プレイヤーとしての進歩が見られない弊害があったりもするわけだ。ぶっちゃけ、音源はカッコイイのにライブを観ると「え?」と思うバンドも少なくないはずである。これは、リアンプ、ギターに限らず、他楽器でも言えること。Pro Tools主体のレコーディングは、修正することや、音作りに重視するあまり、肝心の楽曲が軽視されてしまうよな。いくら、サウンドが豪華、音質が良いといったところで楽曲がカッコよくなきゃ、意味がないのである。

このあたりは、現代の技術革新におけるプレイヤーとしての大罪ともいうべき問題でもある。

ギターサウンドの壁を作った hide

リアンプやプラグインといった現代のギターサウンド構築のお手本ともいえるのが、hideである。ギターダビング、バンド内にギターが1人しかいなくとも、1本がバッキング、1本がギターソロというギターダビングは古くから行われてきたが、同じフレーズを何本も弾いて、ギターサウンドの厚みを出すというのはhideが広めた部分がある。さらには、『Ja,Zoo』においてイコライザーでの音質調整ではなく、複数のアンプを混ぜることによって一つのギターサウンドを作るという画期的な方法がとられている。具体的には、フェンダー(高音域)、マーシャル(中音域)、ベースアンプ(低音域)とそれぞれの特性を持つ、アンプを同時に鳴らし、低音が欲しければベースアンプの音量を上げるといった具合だ。6、7台のアンプを用いて一つのギターサウンドが作り上げられている。今でこそ、プラグインなどでそういったことも出来ることではあるが、当時としてはあまりに斬新すぎる発想だった。いち早くコンピューターミュージックを導入してきた賜物ともいえるだろう。

このhideの作り上げたギターサウンドが、J-Rock、V-Rockにおいてのラウドロック、ヘヴィサウンドの一つの基準になっていることは説明するまでもあるまい。

余談だが、布袋の影響を受け、hideが「ever free」を作り、それに呼応するかのごとく、布袋がhideの「Rocket Dive」カヴァー。そしてこれを境に、布袋が一時期若干歌謡曲よりになっていた路線から『SUPER SONIC GENERATION』というデジタルでサイバーなアルバムを作り上げたという経緯も興味深いところである。


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