ギャルバンとガールズバンドの巻 – ジェイロック回顧主義 #16

執権:かなり久々(約3年ぶり!?)となる「ジェイロック回顧主義」なんだけど、テーマはやっぱり“ガールズバンド”かなぁと思ってさ。こないだギター・マガジンの『女性ギタリスト特集』を読んだのね、そしたら<著者・冬将軍>だったんだよ。

将軍:へ?去年のヤツ? 今更かよ!(ギター・マガジン 2016年 4月号

執権:そう(笑)。あそこに書いてあったクロニクル的なところを女性ギタリストではなく、ガールズバンドを中心に話していったらおもしろいのではないか、と思ってさ。

将軍:そしたら、まずはこのSCANDALのインタビュー読んでみてよ。これも去年のだけど。制服時代で止まってる人に現在の彼女たちの姿を見て欲しいところもあるんだけど、とくに後半は現在のガールズバンドシーンを牽引する彼女たちならでは感覚がわかるんじゃないかな。

The RunawaysとThe Go-Go’s

──世界的に見て、ガールズバンドのパイオニアとされるのは、やっぱりThe Runaways(ランナウェイズ)The Go-Go’s(ゴーゴーズ)になるのかな。

60年代にThe Shaggs(シャッグス)といったガレージロックの女性バンドもいたけど、それは近年になって遡って再評価された側面もあるし。そもそもメジャーシーンで、と考えれば70年代後半から80年代に活躍したその2バンド。ただランナウェイズは、JAPANやチープ・トリックのように“スモール・イン・ジャパン”的なところがあるよね。コルセットとガーターベルトの、ほぼ下着姿で歌い狂うシェリー・カーリー(Vo.)を擁し、「チェリー・ボム(Cherry Bomb 1977年 ただし当時の邦題表記は“チェリー・ボンプ”)」が日本でヒット。とはいえ、音楽誌よりも週刊誌やグラビア誌で取り上げられることがほとんどで、“セクシーアイドル”として扱われていた節もある。世界的な影響力を見れば、解散後に活躍したジョーン・ジェット、リタ・フォードという2人のギタリストが所属していたバンドとして再評価されていくわけ。黒髪ショートにレザーのジャケットのジョーンと、グラマラスな出で立ちで変形ギターを抱える金髪ロングのリタは、対照的だけど両者ともに女性ロッカーファッションのパブリックイメージとして今でも定着しているね。

──SILENT SIRENに「チェリボム」という曲があるじゃない? あれってランナウェイズを意識しいるのかな?

そう思ったよね(笑)。制作時に本人が意識したのかどうかは不明だけど、去年のツアーはSEが「チェリー・ボム」で「チェリボム」はじまりだった。

──そして、The Go-Go’s(ゴーゴーズ)

女性バンドとして、はじめてセールス的に成功を収めたのが、ゴーゴーズ。もともとはイギリスのパンクムーヴメントで活動していたんだけど、本国アメリカに戻ってパワーポップに路線変更した『Beauty and the Beat(1981年)』でデビュー。これが徐々に人気を集め、最終的に女性だけのバンドとして初の全米アルバムチャートナンバーワンとなった。




The Go-Go’s – We Got The Beat(1981年)

そのあとは、プリンスが楽曲提供した「マニック・マンデー(Manic Monday 1986年)」でヒットを出したのが、The Bangles(バングルス)。「エジプシャン(Walk Like an Egyptian 1986年)」で女性バンド初の全米シングルチャートナンバーワンを獲得して、一躍80年代を代表する女性バンドとなった。




The Bangles – Walk Like an Egyptian(1986年)

「表のプリプリ、裏のSHOW-YA」

──で、日本はどうなの?

日本における全員女性メンバー初のメジャーバンドは、1977年にデビューしたガールズ(GIRLS)。ジニー(Ba.)、イリア(Gt.)、リタ (Vo.)、レナ(Gt.)、サディ(Dr.)と、メンバー名の頭文字が「G.I.R.L.S.」となっている。ランナウェイズの「チェリー・ボム」をカバーしていたり。もっとも、近田春夫のバックバンド、BEEFに参加して、のちにそれがジューシィ・フルーツとなったギター&ボーカル、イリアこと奥野敦子が在籍していたバンド、といったほうがわかりやすいかもしれない。

──先述のSCANDALのインタビューにも名前が出ているけど、ZELDAもこの頃だっけ?

ZELDAは1982年デビュー。1979年の結成から1996年に至る17年の活動歴は「世界でもっとも長い活動歴を持つ女性グループ」としてギネスブックに記録され、現在も保持している。

──3人のギタリスト(ヨーコ(鈴木洋子)、フキエ(石原富紀江)、本村直美(現・本村ナオミ))が在籍した時期によって音楽性が異なるから「どのZELDAが好きか?」で戦争が起こるんだよな。

でも、民族音楽を取り入れたナオミ時代の90年代以降はちょっと別で、大体語られるのはフキエ時代じゃない? むしろ、白井良明プロデュースの『カルナヴァル(1983年)』か、佐久間正英プロデュースの『C-ROCK WORK(1987年)』で派閥が分かれる。ちなみに私はその間の『空色帽子の日(1985年)』が好き。

──「時折の色彩」いいよねぇ。そしてなんだかんだ、中年世代にとってのガールズバンドといえば、やっぱりSHOW-YAプリンセス プリンセス!!

当時はまだ“ガールズバンド”とは言ってなくて、“ギャルバン”や“レディースバンド”と言ってたけどな。「不良性のイメージのあるロック」を踏襲しつつ本格派ハードロックを貫いたのがSHOW-YAで、対照的に「普通の女の子でもやれるロック」を体現して成功したのがプリンセス プリンセス。

──まさに「表のプリプリ、裏のSHOW-YA」!!

そんな感じで何かと比較されたり、不仲説もあるこの2バンドなんだけど、SHOW-YA「限界LOVERS」のリリース日は1989年2月1日、プリプリ「Diamonds」は同年4月21日で、両曲ともに笹路正徳のプロデュースなんだよね。両バンドのブレイクのきっかけになった曲が同じプロデューサーでほぼ同じ時期にリリースされているのは興味深い。お馴染みのSHOW-YA主宰イベント<NAONのYAON>はプリプリがオープニングアクトを務めててたから、お互い友好的な関係だった。この辺は『私たちが熱狂した 80年代ジャパニーズロック(辰巳出版 2015年)』 で。私もいろいろ書かせていただいております。

“アイドル戦国時代”に対するガールズバンドからの回答

──<NAONのYAON>を中心に、女性バンド、ギャルバンシーンは出来上がってきたよね。

ガールズロック直系のRosyRoxyRollerやPINK SAPPHIRE、プログレバンドのVELVET PΛW……、いろいろな女性バンドが出てきたけど、実際にそのシーンが根付いたかといえばそうじゃないわけ。ごっちゃにしがちなんだけど、近年のガールズバンドシーンと、当時のギャルバンシーンはまったく別に考えないといけない。もちろん<NAONのYAON>は現在も行われているし、最近の子たちもSHOW-YA姐さんをリスペクトしてるのは間違いではないのだけど。直接繋がっているわけではない。

──確かに、SHOW-YAやプリプリののちの90年代は、JUDY AND MARYやthe brilliant greenのような女性ヴォーカルのバンドが流行っていて、全員女性のバンドっていなかったかも。

少年ナイフ、SUPER JUNKY MONKEYやイエローマシンガンくらいなんだよ。

──そっち方面か……。じゃ、今のガールズバンドシーンの起点ってどこなのだろ。

WhiteberryZONE

──え? そこなの?!

バンドブーム期が青春だったバンドマンたちが集まったときの共通言語が、BOØWY「NO NEW YORK」や、ブルーハーツ「リンダリンダ」だったりするのと同じで、今のバンド女子にとってはWhiteberry「夏祭り」とZONE「secret base 〜君がくれたもの〜」なわけ。両バンドとも、歌って踊る女性アイドルやヴォーカルグループに対しての差別化、楽器を演奏するバンドとして打ち出すことで音楽に焦点を仕向け、よりアーティストとして見せて行くという戦略の一つでもあった。ロックファンからは受け入れがたいところではあったけど、当時の小中学生の少女たちがロックを知るきっかけや楽器を手にするきっかけになったわけ。

──なるほどねぇ。

で、SCANDALが出てきた。そうした戦略や、アニメなどのジャパンカルチャーを巻き込んだコンセプトも色濃く打ち出しながらも、一貫した音楽性と本人たちのバンドに対する実直な姿勢から幅広い支持を集めた。デビュー当時から、ちゃんと演奏してたでしょ。

──確かに、好感度はあったよね。

そして、やっぱり女性バンドというと、どこかアイドル視されがちな偏見も生まれるわけだけど、むしろそうした“カワイイ”を含めた女性らしさも武器にした。アルバム『Queens are trumps -切り札はクイーン-(2012年)』あたりからの制服バンドからの脱却と、多面化していったビジュアル展開は、少女から大人の女性へ、という狙いもあったと思うんだけど。これはある種、結果論なのかもしれないけどさ、“アイドル戦国時代”に対するガールズバンドからの回答、みたいな意味合いもあったように思えるんだよ。




SCANDAL 「会わないつもりの、元気でね」(2013年)

──そうか、アイドルブームと被ってるわけね。

実際、アイドルヲタクでSCANDAL好き、という人も珍しくはなかった。デビュー当時のアニメアイコン的なところは、アニメ『けいおん!』ブームにうまく迎合したし。そういう要素をうまく取り込みつつ、独自性を生み出していった。

──それって「アイドルからアーティストへ」みたいな感じではないんだよね? ほら、80年代とか「脱・アイドル」みたいな風潮もあったりしたじゃない。

そこが逆によかったと思うんだよね。当時のインタビューなんかでも、アイドル視されることに抵抗はないと言っているし、むしろ「アイドルは歌って踊って芝居もやるしすごい」みたいなリスペクトを示したりしてる。それをビジュアル展開やライブに落とし込んで行って、<SCANDAL ARENA LIVE 2014 「FESTIVAL」>で完全に極まった。いわゆるバンドマジック的なロックバンドの姿とは違うんだけど、演奏、演出、衣装……、すべてにおいてバンドとアイドルの融合とでもいうか、女性バンドだからできるエンターテインメント性を余すことなく魅せつけ、ガールズバンドの金字塔を打ち立てたライブだと思ってる。ZONEが「バンドでもアイドルでもない“バンドル”」というのを掲げてたけど、もっと深化させたもの、自分たちの存在を示すと同時に「これがガールズバンドなんだ!」って。

──アイドル視される偏見を否定するわけでもなく、逆手に取ったというわけね。

「自分たちで曲書いてない」っていうのも、マイナスではなかったんだよね。まぁ、そんなの一部ロックファンの言いがかりみたいなものだけど、今よりもっと否定的な意見は多かったし。この翌年<WORLD HAPPINESS 2015>に出演してるんだけど、そのとき、高橋幸宏とクリス・ペプラーが「4人全員ハズレがないバンド」と評していて。その意味はいろいろあると思うんだけど、まさに言いえて妙だなと思った。ロックは男の子チックなものだし、女子もロックをやるからには中指立てなければならない、みたいな風潮があったじゃない。だけど、「そんなことしなくてもいいんだよ、女の子は女の子らしくバンドやろうよ」って、みんなに教えてくれたのはSCANDALなんだよ。

──ああ、なんか納得できるわー。そういうことを踏まえて、ガールズバンドのムーヴメントが起こり、SILENT SIRENのようなバンドが出てきたわけだ。

SILENT SIRENが目指す「ガールズバンドとしててっぺんを獲る」というのは、人気はもちろんだけど、演奏して歌って踊ってバカやって、というトータル的なエンタメ性なのよ(笑)。若い男のバンドがそれやったらチャラいだけじゃん。でも女の子だったらそれが許される、むしろそれがガールズバンドなんだって。サイサイが面白いのは、SCANDALの切り開いたところを歩きながら、そうやって我が道を突き進んでいるところ。SCANDALって、はじまりからコンセプトもすべて“大人が作った”バンドだったど、サイサイは自己発信で生まれたバンドだから、よりフリーダム。確かに“読モ出身”ということで、いろんな媒体からチヤホヤされてた部分はあったけど、楽曲もプロデュースも外部の手が一切入っていないし、タイアップらしいタイアップもなかった。ミュージックステーションだって、武道館公演の約半年後にようやく出演したくらいだし。

──へぇー。目立つからよく目にするように思ってたけど、言われてみればメディアに出てるのあまり見たことないかも。

もともとが、10-FEETやACIDMANみたいな男のバンドに憧れて結成、という経緯だから、初期インディーズ曲って、男のマイナーロック色が強かったりする。最初は演奏もお世辞にも上手いとは言えなかったし、普通だったら外部作家やプロデューサー立てられてもおかしくなかったと思うんだよ。そういう意味では、制作チームに恵まれてきたんだと思う。失礼な言い方だけど、比較的小規模なレコード会社だったことも結果としてはよかったんじゃないかな。派手な宣伝よりもしっかりとした制作をやってきたイメージがある。それで成り上がってきたバンドだから、今さら超大手に移っても根本のやり方は変わらないだろうしね。




Silent Siren / escape(2012年)

「女性バンド=ガールズバンド」というわけでもない

──今のガールズバンドシーンを見ると、SCANDALとサイサイの二強で、その下にSHISHAMOがいるっていうイメージだけど、なんかうまくいえないけど同じガールズバンドのシーンでもいろいろあるというか……。

ガールズバンドとはいえ、アイドル視されるようなエンタメ性の高いバンドと、真反対のロキノン系みたいなバンドがいて、ということでしょ? それはガールズバンドの括り自体が曖昧だからなんだよ。ヴィジュアル系と似たところでもある。

──でも、“女性バンド”っていう明確な定義があるわけじゃない? わかりやすそうなんだけど。

「女性バンド=ガールズバンド」というわけでもないんだよ。たとえば、tricotはドラムがサポートだし、元々は男性ドラマーだったじゃん。でもガールズバンドとして括られることもあるし。GO!GO!7188とかさ。

──言われてみればそうかも。じゃあ、女性ヴォーカルも? いや、それは違うな。メンバーの過半数が女性だったらガールズバンド……、というのも何か違うし。

な? 曖昧なんだよ。でもそれは自由度が高いということだからさ。SCANDALとサイサイは女の子の部分「ガーリー感」も売りにしているじゃん。でも、SHISHAMOや赤い公園がそういうことをやっているかといえば、やってないし。はたまた、AldiousやCyntiaの嬢メタルと呼ばれるバンドはまたちがう女性の部分「セクシーさ」を武器にしたりもする。こっちはSHOW-YAに近いというか、ガールズバンドというよりも、レディースバンドと呼んだほうがしっくりくる気がするし。ファン層だってそれぞれ。だからね、あまり深く考えることないと思うんだよ。括り方は臨機応変に。男性バンドに比べると圧倒的に数が少ないし、歴史自体も浅いわけだし。

──意外とまだまだこれからなのかもしれないね、ガールズバンドシーンは。

ガールズバンドという言葉からイメージする子供っぽさとでもいうのかな、私も最初それはマイナスイメージなのかなとも思っていたんだけど。でも、それこそ、SCANDALとサイサイがアイドル性をも武器にして人気を確立させたことによって、打ち消されたところもあるよ。アイドル的なアイコンというか、2.5次元的なわかりやすさも具体化したと思うし。『BanG Dream!(バンドリ!)』なんてその典型的なものだと思う。Poppin’Party(ポッピン パーティー)の作画のモデルって、あきらかに絶対サイサイじゃん(笑)。最近の女学生のバンドは、キーボーディストが居て、弾いて踊って煽るのがデフォだしね。反面で、中にはガールズバンドと呼ばれることを嫌うバンドもいるからね。これもヴィジュアル系と似た部分だし、それだけ浸透してるってことだと思う。

──一方で、女性バンドは長続きしないと言われてたり。

女性ならでは生き方、結婚、出産などもあるだろうし。でも、これほど多くの女性バンドが活動しているのは世界的に見ても日本だけで。ガールズバンドという言葉自体が和製英語だったり、日本独自の文化であることを表している。ジャパンカルチャーとして、アニメだったりアイドルのように海外注目されてきているところもある。2017年の現在でも、全米ナンバーワンになった女性バンドは、アルバムチャートはゴーゴーズのみ、シングルチャートにおいてもバングルスだけなんだよ。だから、それを日本の女性バンドが塗り替えるなんてことも、もしかしたらあり得ることなのかもしれないよね。

SCANDAL ARENA LIVE 2014「FESTIVAL」
SCANDAL
SME
Release: 2015/1/14

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ギャルバンとガールズバンドの巻 – ジェイロック回顧主義 #16

執権:かなり久々(約3年ぶり!?)となる「ジェイロック回顧主義」なんだけど、テーマはやっぱり“ガールズバンド”かなぁと思ってさ。こないだギター・マガジンの『女性ギタリスト特集』を読んだのね、そしたら<著者・冬将軍>だったんだよ。

将軍:へ?去年のヤツ? 今更かよ!(ギター・マガジン 2016年 4月号

執権:そう(笑)。あそこに書いてあったクロニクル的なところを女性ギタリストではなく、ガールズバンドを中心に話していったらおもしろいのではないか、と思ってさ。

将軍:そしたら、まずはこのSCANDALのインタビュー読んでみてよ。これも去年のだけど。制服時代で止まってる人に現在の彼女たちの姿を見て欲しいところもあるんだけど、とくに後半は現在のガールズバンドシーンを牽引する彼女たちならでは感覚がわかるんじゃないかな。

The RunawaysとThe Go-Go’s

──世界的に見て、ガールズバンドのパイオニアとされるのは、やっぱりThe Runaways(ランナウェイズ)The Go-Go’s(ゴーゴーズ)になるのかな。

60年代にThe Shaggs(シャッグス)といったガレージロックの女性バンドもいたけど、それは近年になって遡って再評価された側面もあるし。そもそもメジャーシーンで、と考えれば70年代後半から80年代に活躍したその2バンド。ただランナウェイズは、JAPANやチープ・トリックのように“スモール・イン・ジャパン”的なところがあるよね。コルセットとガーターベルトの、ほぼ下着姿で歌い狂うシェリー・カーリー(Vo.)を擁し、「チェリー・ボム(Cherry Bomb 1977年 ただし当時の邦題表記は“チェリー・ボンプ”)」が日本でヒット。とはいえ、音楽誌よりも週刊誌やグラビア誌で取り上げられることがほとんどで、“セクシーアイドル”として扱われていた節もある。世界的な影響力を見れば、解散後に活躍したジョーン・ジェット、リタ・フォードという2人のギタリストが所属していたバンドとして再評価されていくわけ。黒髪ショートにレザーのジャケットのジョーンと、グラマラスな出で立ちで変形ギターを抱える金髪ロングのリタは、対照的だけど両者ともに女性ロッカーファッションのパブリックイメージとして今でも定着しているね。

──SILENT SIRENに「チェリボム」という曲があるじゃない? あれってランナウェイズを意識しいるのかな?

そう思ったよね(笑)。制作時に本人が意識したのかどうかは不明だけど、去年のツアーはSEが「チェリー・ボム」で「チェリボム」はじまりだった。

──そして、The Go-Go’s(ゴーゴーズ)

女性バンドとして、はじめてセールス的に成功を収めたのが、ゴーゴーズ。もともとはイギリスのパンクムーヴメントで活動していたんだけど、本国アメリカに戻ってパワーポップに路線変更した『Beauty and the Beat(1981年)』でデビュー。これが徐々に人気を集め、最終的に女性だけのバンドとして初の全米アルバムチャートナンバーワンとなった。




The Go-Go’s – We Got The Beat(1981年)

そのあとは、プリンスが楽曲提供した「マニック・マンデー(Manic Monday 1986年)」でヒットを出したのが、The Bangles(バングルス)。「エジプシャン(Walk Like an Egyptian 1986年)」で女性バンド初の全米シングルチャートナンバーワンを獲得して、一躍80年代を代表する女性バンドとなった。




The Bangles – Walk Like an Egyptian(1986年)

「表のプリプリ、裏のSHOW-YA」

──で、日本はどうなの?

日本における全員女性メンバー初のメジャーバンドは、1977年にデビューしたガールズ(GIRLS)。ジニー(Ba.)、イリア(Gt.)、リタ (Vo.)、レナ(Gt.)、サディ(Dr.)と、メンバー名の頭文字が「G.I.R.L.S.」となっている。ランナウェイズの「チェリー・ボム」をカバーしていたり。もっとも、近田春夫のバックバンド、BEEFに参加して、のちにそれがジューシィ・フルーツとなったギター&ボーカル、イリアこと奥野敦子が在籍していたバンド、といったほうがわかりやすいかもしれない。

──先述のSCANDALのインタビューにも名前が出ているけど、ZELDAもこの頃だっけ?

ZELDAは1982年デビュー。1979年の結成から1996年に至る17年の活動歴は「世界でもっとも長い活動歴を持つ女性グループ」としてギネスブックに記録され、現在も保持している。

──3人のギタリスト(ヨーコ(鈴木洋子)、フキエ(石原富紀江)、本村直美(現・本村ナオミ))が在籍した時期によって音楽性が異なるから「どのZELDAが好きか?」で戦争が起こるんだよな。

でも、民族音楽を取り入れたナオミ時代の90年代以降はちょっと別で、大体語られるのはフキエ時代じゃない? むしろ、白井良明プロデュースの『カルナヴァル(1983年)』か、佐久間正英プロデュースの『C-ROCK WORK(1987年)』で派閥が分かれる。ちなみに私はその間の『空色帽子の日(1985年)』が好き。

──「時折の色彩」いいよねぇ。そしてなんだかんだ、中年世代にとってのガールズバンドといえば、やっぱりSHOW-YAプリンセス プリンセス!!

当時はまだ“ガールズバンド”とは言ってなくて、“ギャルバン”や“レディースバンド”と言ってたけどな。「不良性のイメージのあるロック」を踏襲しつつ本格派ハードロックを貫いたのがSHOW-YAで、対照的に「普通の女の子でもやれるロック」を体現して成功したのがプリンセス プリンセス。

──まさに「表のプリプリ、裏のSHOW-YA」!!

そんな感じで何かと比較されたり、不仲説もあるこの2バンドなんだけど、SHOW-YA「限界LOVERS」のリリース日は1989年2月1日、プリプリ「Diamonds」は同年4月21日で、両曲ともに笹路正徳のプロデュースなんだよね。両バンドのブレイクのきっかけになった曲が同じプロデューサーでほぼ同じ時期にリリースされているのは興味深い。お馴染みのSHOW-YA主宰イベント<NAONのYAON>はプリプリがオープニングアクトを務めててたから、お互い友好的な関係だった。この辺は『私たちが熱狂した 80年代ジャパニーズロック(辰巳出版 2015年)』 で。私もいろいろ書かせていただいております。

“アイドル戦国時代”に対するガールズバンドからの回答

──<NAONのYAON>を中心に、女性バンド、ギャルバンシーンは出来上がってきたよね。

ガールズロック直系のRosyRoxyRollerやPINK SAPPHIRE、プログレバンドのVELVET PΛW……、いろいろな女性バンドが出てきたけど、実際にそのシーンが根付いたかといえばそうじゃないわけ。ごっちゃにしがちなんだけど、近年のガールズバンドシーンと、当時のギャルバンシーンはまったく別に考えないといけない。もちろん<NAONのYAON>は現在も行われているし、最近の子たちもSHOW-YA姐さんをリスペクトしてるのは間違いではないのだけど。直接繋がっているわけではない。

──確かに、SHOW-YAやプリプリののちの90年代は、JUDY AND MARYやthe brilliant greenのような女性ヴォーカルのバンドが流行っていて、全員女性のバンドっていなかったかも。

少年ナイフ、SUPER JUNKY MONKEYやイエローマシンガンくらいなんだよ。

──そっち方面か……。じゃ、今のガールズバンドシーンの起点ってどこなのだろ。

WhiteberryZONE

──え? そこなの?!

バンドブーム期が青春だったバンドマンたちが集まったときの共通言語が、BOØWY「NO NEW YORK」や、ブルーハーツ「リンダリンダ」だったりするのと同じで、今のバンド女子にとってはWhiteberry「夏祭り」とZONE「secret base 〜君がくれたもの〜」なわけ。両バンドとも、歌って踊る女性アイドルやヴォーカルグループに対しての差別化、楽器を演奏するバンドとして打ち出すことで音楽に焦点を仕向け、よりアーティストとして見せて行くという戦略の一つでもあった。ロックファンからは受け入れがたいところではあったけど、当時の小中学生の少女たちがロックを知るきっかけや楽器を手にするきっかけになったわけ。

──なるほどねぇ。

で、SCANDALが出てきた。そうした戦略や、アニメなどのジャパンカルチャーを巻き込んだコンセプトも色濃く打ち出しながらも、一貫した音楽性と本人たちのバンドに対する実直な姿勢から幅広い支持を集めた。デビュー当時から、ちゃんと演奏してたでしょ。

──確かに、好感度はあったよね。

そして、やっぱり女性バンドというと、どこかアイドル視されがちな偏見も生まれるわけだけど、むしろそうした“カワイイ”を含めた女性らしさも武器にした。アルバム『Queens are trumps -切り札はクイーン-(2012年)』あたりからの制服バンドからの脱却と、多面化していったビジュアル展開は、少女から大人の女性へ、という狙いもあったと思うんだけど。これはある種、結果論なのかもしれないけどさ、“アイドル戦国時代”に対するガールズバンドからの回答、みたいな意味合いもあったように思えるんだよ。




SCANDAL 「会わないつもりの、元気でね」(2013年)

──そうか、アイドルブームと被ってるわけね。

実際、アイドルヲタクでSCANDAL好き、という人も珍しくはなかった。デビュー当時のアニメアイコン的なところは、アニメ『けいおん!』ブームにうまく迎合したし。そういう要素をうまく取り込みつつ、独自性を生み出していった。

──それって「アイドルからアーティストへ」みたいな感じではないんだよね? ほら、80年代とか「脱・アイドル」みたいな風潮もあったりしたじゃない。

そこが逆によかったと思うんだよね。当時のインタビューなんかでも、アイドル視されることに抵抗はないと言っているし、むしろ「アイドルは歌って踊って芝居もやるしすごい」みたいなリスペクトを示したりしてる。それをビジュアル展開やライブに落とし込んで行って、<SCANDAL ARENA LIVE 2014 「FESTIVAL」>で完全に極まった。いわゆるバンドマジック的なロックバンドの姿とは違うんだけど、演奏、演出、衣装……、すべてにおいてバンドとアイドルの融合とでもいうか、女性バンドだからできるエンターテインメント性を余すことなく魅せつけ、ガールズバンドの金字塔を打ち立てたライブだと思ってる。ZONEが「バンドでもアイドルでもない“バンドル”」というのを掲げてたけど、もっと深化させたもの、自分たちの存在を示すと同時に「これがガールズバンドなんだ!」って。

──アイドル視される偏見を否定するわけでもなく、逆手に取ったというわけね。

「自分たちで曲書いてない」っていうのも、マイナスではなかったんだよね。まぁ、そんなの一部ロックファンの言いがかりみたいなものだけど、今よりもっと否定的な意見は多かったし。この翌年<WORLD HAPPINESS 2015>に出演してるんだけど、そのとき、高橋幸宏とクリス・ペプラーが「4人全員ハズレがないバンド」と評していて。その意味はいろいろあると思うんだけど、まさに言いえて妙だなと思った。ロックは男の子チックなものだし、女子もロックをやるからには中指立てなければならない、みたいな風潮があったじゃない。だけど、「そんなことしなくてもいいんだよ、女の子は女の子らしくバンドやろうよ」って、みんなに教えてくれたのはSCANDALなんだよ。

──ああ、なんか納得できるわー。そういうことを踏まえて、ガールズバンドのムーヴメントが起こり、SILENT SIRENのようなバンドが出てきたわけだ。

SILENT SIRENが目指す「ガールズバンドとしててっぺんを獲る」というのは、人気はもちろんだけど、演奏して歌って踊ってバカやって、というトータル的なエンタメ性なのよ(笑)。若い男のバンドがそれやったらチャラいだけじゃん。でも女の子だったらそれが許される、むしろそれがガールズバンドなんだって。サイサイが面白いのは、SCANDALの切り開いたところを歩きながら、そうやって我が道を突き進んでいるところ。SCANDALって、はじまりからコンセプトもすべて“大人が作った”バンドだったど、サイサイは自己発信で生まれたバンドだから、よりフリーダム。確かに“読モ出身”ということで、いろんな媒体からチヤホヤされてた部分はあったけど、楽曲もプロデュースも外部の手が一切入っていないし、タイアップらしいタイアップもなかった。ミュージックステーションだって、武道館公演の約半年後にようやく出演したくらいだし。

──へぇー。目立つからよく目にするように思ってたけど、言われてみればメディアに出てるのあまり見たことないかも。

もともとが、10-FEETやACIDMANみたいな男のバンドに憧れて結成、という経緯だから、初期インディーズ曲って、男のマイナーロック色が強かったりする。最初は演奏もお世辞にも上手いとは言えなかったし、普通だったら外部作家やプロデューサー立てられてもおかしくなかったと思うんだよ。そういう意味では、制作チームに恵まれてきたんだと思う。失礼な言い方だけど、比較的小規模なレコード会社だったことも結果としてはよかったんじゃないかな。派手な宣伝よりもしっかりとした制作をやってきたイメージがある。それで成り上がってきたバンドだから、今さら超大手に移っても根本のやり方は変わらないだろうしね。




Silent Siren / escape(2012年)

「女性バンド=ガールズバンド」というわけでもない

──今のガールズバンドシーンを見ると、SCANDALとサイサイの二強で、その下にSHISHAMOがいるっていうイメージだけど、なんかうまくいえないけど同じガールズバンドのシーンでもいろいろあるというか……。

ガールズバンドとはいえ、アイドル視されるようなエンタメ性の高いバンドと、真反対のロキノン系みたいなバンドがいて、ということでしょ? それはガールズバンドの括り自体が曖昧だからなんだよ。ヴィジュアル系と似たところでもある。

──でも、“女性バンド”っていう明確な定義があるわけじゃない? わかりやすそうなんだけど。

「女性バンド=ガールズバンド」というわけでもないんだよ。たとえば、tricotはドラムがサポートだし、元々は男性ドラマーだったじゃん。でもガールズバンドとして括られることもあるし。GO!GO!7188とかさ。

──言われてみればそうかも。じゃあ、女性ヴォーカルも? いや、それは違うな。メンバーの過半数が女性だったらガールズバンド……、というのも何か違うし。

な? 曖昧なんだよ。でもそれは自由度が高いということだからさ。SCANDALとサイサイは女の子の部分「ガーリー感」も売りにしているじゃん。でも、SHISHAMOや赤い公園がそういうことをやっているかといえば、やってないし。はたまた、AldiousやCyntiaの嬢メタルと呼ばれるバンドはまたちがう女性の部分「セクシーさ」を武器にしたりもする。こっちはSHOW-YAに近いというか、ガールズバンドというよりも、レディースバンドと呼んだほうがしっくりくる気がするし。ファン層だってそれぞれ。だからね、あまり深く考えることないと思うんだよ。括り方は臨機応変に。男性バンドに比べると圧倒的に数が少ないし、歴史自体も浅いわけだし。

──意外とまだまだこれからなのかもしれないね、ガールズバンドシーンは。

ガールズバンドという言葉からイメージする子供っぽさとでもいうのかな、私も最初それはマイナスイメージなのかなとも思っていたんだけど。でも、それこそ、SCANDALとサイサイがアイドル性をも武器にして人気を確立させたことによって、打ち消されたところもあるよ。アイドル的なアイコンというか、2.5次元的なわかりやすさも具体化したと思うし。『BanG Dream!(バンドリ!)』なんてその典型的なものだと思う。Poppin’Party(ポッピン パーティー)の作画のモデルって、あきらかに絶対サイサイじゃん(笑)。最近の女学生のバンドは、キーボーディストが居て、弾いて踊って煽るのがデフォだしね。反面で、中にはガールズバンドと呼ばれることを嫌うバンドもいるからね。これもヴィジュアル系と似た部分だし、それだけ浸透してるってことだと思う。

──一方で、女性バンドは長続きしないと言われてたり。

女性ならでは生き方、結婚、出産などもあるだろうし。でも、これほど多くの女性バンドが活動しているのは世界的に見ても日本だけで。ガールズバンドという言葉自体が和製英語だったり、日本独自の文化であることを表している。ジャパンカルチャーとして、アニメだったりアイドルのように海外注目されてきているところもある。2017年の現在でも、全米ナンバーワンになった女性バンドは、アルバムチャートはゴーゴーズのみ、シングルチャートにおいてもバングルスだけなんだよ。だから、それを日本の女性バンドが塗り替えるなんてことも、もしかしたらあり得ることなのかもしれないよね。

SCANDAL ARENA LIVE 2014「FESTIVAL」
SCANDAL
SME
Release: 2015/1/14

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