エンターテインメントというものは本来「大衆性に向けた」ものであり、ポピュラリティーといったメジャー感があるものだけど、それに対する反抗勢力というものが必ずあるもの。音楽市場において、90年代のタイアップなどによるミリオン連発のセールス至上、言わば商業音楽への反抗は現在におけるインディーロック、“ロキノン系”シーンを生んだと言っても良い。
相反するものが共存、二極化するシーンというのが面白いところでもあり、本流があるから亜流があり、異質が同質を引立てることもある。ただ、商業主義に対する反発がヲタク的カルト主義を先鋭する結果になってしまい、それこそが正義だと勘違いした人たちが新しい商業主義を作って行くこともある。
現在のセールスチャートはアイドルを始めとする特定のグループが多くを占め、その中身は各特定ファンが買い支えることで成り立っているといっても否定はできない。「CDが売れない」現実が世界的に叫ばれている中、その事実を棚にあげて「日本はまだCDが売れているから大丈夫」なんてお偉いさんたちが大見栄切って発言している。今の音楽における商業主義であるその「複数買い」は先日ゴールデンボンバーが身を持って問題提議した部分でもある。
そこをもう少し踏み込んでみたい。現在のCD売上事情、複数形態販売を含めた市場と主流となるオリコンを中心としたセールスチャート集計の現状など業界的な部分を含めたところである。よく言われる「今のオリコンには意味がないのか?」という話。解ってるようで意外と解ってないところもあるんじゃないかと思う。批判や文句を言うのはいつでも出来るものだから。
厳密に言えばシングルとアルバムで異なるところもあるが、ひとまずそこはあまり考えずに、CDというパッケージ販売形態とチャートの現状を並べてみる。
1位を取らないと意味がない現実
「CDが売れない時代」なんて言いたくもない言葉でもあるが、今は「何枚売れたら、売れてる」と言っていいのかが全く解らない。指標がないのだ。極端な言い方を言ってしまえば、現在のシングルセールスをみれば、10万枚以上の売上があるタイトルは何らかの特典がついていると言っていいだろう。一昔前の「100万枚売れました」という実績はほど遠いものになってしまい、それに変わる現実的なものが「オリコン1位」という大義名分である。音楽ファンの中では、その1位も権威は薄れてきているとも言われるが、一般層に向けてはまだ説得力のあるものである。
では次に「何枚売れたら1位が取れるのか?」という問題もあるのだが、一つの目安として「10万枚以上のシングル売上=1位が狙えそうなアーティスト」とするなら、そのアーティストの数は限られている。そして、それらは「確実に1位が取れる発売日」を狙ってくる。現在のオリコン集計法に基づいて、水曜日発売が当たり前になってしまったので、強豪とバッティングしない俗に言う〈隙間週発売狙い〉である。上手くこの隙間を狙えるのなら、数万枚程度でも1位になることは可能であるが、それによる弊害は〈フラゲ日の初動型〉であり、イベント等による予約数見込みによる売上が全てであることだ。余程のことがない限りは「予想以上の売上」は見込めない。ポッと出の新人や一昔前の有線リクエストによりじわじわと人気を上げた曲が、何週目にして1位という“番狂わせ”は起こりにくくなっている。
初回限定という価値
今や当たり前になっている「初回限定」がある。実際は本当に限定なのか疑わしい部分もあるのだが、80年代後半からアーティストが自分たちの世界観の表現と他者との差別化を図るために急激に普及した。当時多かったものとしては“三方背スリーブケース”や“ブックレット付き”の特別外装と、シルク印刷による単色〜2色刷りではなく、フルカラーの“ピクチャーレーベル”仕様の盤面などである。ただ、当時は「初回プレス仕様」と謡われるものが多かったりする。現在の「初回限定盤」と「通常盤」に分けられるような、複数形態の同時発売ではなく、初回生産分のみの特別仕様という形が多かった。
複数形態によるオリコン集計方法
アートワーク面にこだわるアーティストはその仕様にも特異性を出し、スリーブケースに納まり切らないような豪華パッケージやブックレットを越えた写真集をつける特別仕様もある。当時としては画期的とも言える豪華仕様形態をオリジナルタイトルでいちはやく用いた、米米CLUB『GO FUNK』(1988年9月21日発売 CBSソニー)が、売上枚数集計による物議を醸し出している。LP・カセットからCDに移り変わって行く過程であり、ただでさえ、メディアの違いによるチャート集計がシビアになっていた時代背景もあった。現に次作アルバム『5 1/2』では、1989年11月11日(CD初回盤・カセット)、11月17日(CD通常盤)と、発売日をずらすことにより、別タイトルとして集計されることで回避されている。これ以降、他アーティストにおいても初回盤と限定盤の発売日をずらすタイトルリリースが多くなり、例え同じ発売日だとしても別タイトルとする集計方法がとられた。であるから、レコード会社は別タイトルとして扱われる「限定盤」ではなく、同タイトル扱いの「初回プレス仕様」を多く採用することになったとも言えるだろう。
そして、2001年5月7日付から、同一タイトルであれば、初回盤と限定盤なども合算して集計する方法が取られている。複数形態であれば型番もJANコードも異なるため、本来は事実上商品としては別モノである。POSシステムによる徹底した商品管理が整い始めた時代にあえてこうした集計法を採用したことが興味深い。しかし、この合算の提議はあくまで「目安」であり曖昧である。
■合算集計について – ORICON STYLE
CDランキングでは、シングル、アルバムともに、CDだけでなく、カセットテープ、アナログレコードなどの売上も調査しており、弊社が定めた目安にもとづき、同一タイトルで同一商品とみなせるものに関しては、メディアの違いを問わず合算して集計を行っています。またCD、DVD、Blu-ray Discともに、同一タイトルで特典付きなどの限定・特別仕様盤などと通常盤がそれぞれ発売される場合には、目安に則し合算集計を行うケースがあります。
なぜ合算集計法に変更されたのか、その理由は明らかではないが、レコード会社の要望によるものと考えるのが妥当だろう。
現在の複数種販売のスタンダードとなっている〈DVD付き形態〉がはじめて採用されたタイトルは、Tommy february6『EVERYDAY AT THE BUS STOP』(2001年7月25日発売 DefSTAR RECORDS)である。その発売日と合算集計が採用された時期を照らし合わせれば、おのずとその理由が見えてくるかもしれない。
再販制度による値引き合戦
幾度となく触れている「再販制度」であるが、改めて説明すれば、対象商品に対し、一定期間定価販売することが義務付けられ、値引きが禁止されている制度である。CD等の音楽ソフトは対象であるが、DVD等の映像ソフトは対象外である。これにより、CDにDVDを付けることにより映像ソフト(名目上は“CD付きのDVD”となる)として売り出し、販売店への値引き競争を招いている。例え初回盤が通常盤の販売価格より下がっていても、定価が高い初回盤のほうが卸値は高く、値引きするか否かは販売店次第なので、大元の卸から見れば初回盤のほうが利益は高いことになる。それにより、規模の小さい小売店では値引きが出来ず、単品における利益は減っても商品回転数を伸ばすことの出来る大手やネットショップ系列の一人勝ち状態である。音楽著作物(CD・レコード・テープ)を再販商品として定めているのは世界の中でも日本だけである。
ミュージックカードという新たな販売形態
ミュージックカードは2012年にエイベックスが始めたカード形態の音楽販売である。カードに記載されたPINコードをPC/スマホに入力することでダウンロードできる。iTunesカードと違うのはプリペイド課金式ではなく、規定のタイトルを買うということだ。タイトル毎、目的のミュージックカードを買うことになる。そのため、配信のようで配信扱いではなく、オリコンにCD売上として計上される。実際にユーザーがダウンロードしなくともカードを購入した時点で売上になる。
CDより販売価格が安く、特に複数枚購入するようなアイドルファンなどにとってはCDのような同じ商品が溢れるリスクも罪悪感もなく、推しメンの写真を集めるコレクター感覚の購買欲を誘う。1タイトルにつき、60〜70種ほどのミュージックカードが用意されているアイドルグループもある。
CDにライブイベントチケットを付加することは一つの特典商法として昔から存在するが、このミュージックカードの登場により、ライブと合わせた新たな特典商法が生まれてきている。「CDにライブイベントチケットを付加する」のではなく、「ライブチケットを購入するとミュージックカードがついてくる」というものである。CDのような物品の押し付けがましさはなく、購入者にとってはチケットのオマケでカードがついてくる感覚である。ライブツアーの動員数がそのままCD売上枚数としてそのまま加算されていく。
ちなみに、おまけの値段が本体の値段の20%以下なら合法である。
総付景品
1,000円未満・・・200円
1,000円以上・・・取引価額の10分の2参考リンク:景品規制の概要 | 消費者庁
オリコンより、ミュージックカードの合算集計を2015年4月7日をもって、終了することを発表
サウンドスキャンとビルボード
オリコンの他にも独自の集計方法を取っているチャートも存在している。よく比較されるのが、サウンドスキャンだ。純粋にPOSシステムのみよる集計で同タイトルでも型番が違うものは別商品として扱われる。オリコンはPOSを基本としているが、会場販売、即売イベントなどあらゆる販売方法の総合であるが、サウンドスキャンは、POSを使わない販売が計上されないため、即売イベントなどの手売り販売は形式によって、その売上が加算されない。即売イベントなどを売り増しのドーピング商法として捉えるのであれば、実質正規の売上とも言えるわけだが、実際はインディーズバンドや、中高年層に支えられる歌謡曲などはライブ会場での売上枚数が大きく影響するため、軽視できない場合が多く、ジャンルによっては不利になる。そして、集計協力店がオリコンに比べると圧倒的に少ない。
ビルボードはアメリカの音楽業界誌で、主流となるチャートを発表しているが、設立当初からセールスのみならず、ラジオでのオンエア数(エアプレイ)を加味した集計法を行なってきた。1991年までは「エアプレイ75%:セールス25%」という日本では考えられないほどのラジオ重視チャートである。もちろん売上のみのセールスチャートも部門の一つとして存在はするが、主とされるのは総合チャートである。
その後、ダウンロード数やYouTube再生数などを加味するなど、その集計方法は時代に合わせて幾度となく改変されている。
日本におけるビルボードは阪神コテンツリンクとの提携により2007年より開始。2012年7月3日より、株式会社プレンテックの運営する音楽ニュースサイト「ホットエキスプレス・ミュージックマガジン」がその冠を受け継いでいる。
2013年12月9日付けより、売上枚数、エアプレイ数、iTMSのDL数、NTTデータが提供するTwitterでの楽曲・アーティストに関するツイート回数と、GracenoteによるCDDBの情報提供回数のデータを加味したチャートを発表しているが、浸透度と影響力はまだまだこれからといった現状である。
さて、CD販売形態とチャートの集計の現状をザっと並べてみたわけだが…
何がおかしくて何が正しいのか、思うところは人それぞれということにしておく。
ちなみに良識ある音楽業界人はオリコンの数字に関して「売上枚数」ではなく、「ポイント数」という言葉を使っていることを最後に付け加えておきたい。