執権:このシリーズ、結構反響があるみたいで。
将軍:どうせアレでしょ、「ヴィジュアル系の語源は〜」の話題を出すと「フールズガー」「ショックスガー」って言うヤツ。この手の話はWeb上で、特にトゥイッターで話してはいけないって、しんだばーちゃんが、、、
執権:今日は敢えてそこに突っ込んで行きたいと思っています。
禁断の「ヴィジュアル系語源」
──俗に言う黒服・オケバン直系のバンドと00年代、90年代後期か、それ以降のヴィジュアル系って全く別の世界じゃん。だからファンの認識も既にその言葉があった世代とそれが生まれる過程を見てきた世代とで違いがあるのはしょうがないよね。
結局、後追いで辿るしかない。しかも曖昧というか、誰もよく覚えてないのが正直なところ。
──そこは起源にしてもだけど、誰が最初に化粧し始めたかって話になると、Xだ、BOØWYだ、もっと遡ればジュリーだなんて。じゃ、イギリスのニュー・ウェーヴは?KISSは歌舞伎だ、そこまで遡るのなら言い出し始めたら古代エジプトくらいになっちゃう。でも、確実に言えるのは90年代初頭には「ヴィジュアル系」は存在してなかったと言うことかなぁ。
そう、そこなんだよ。でもそれを言うとね、それこそ、やれ何年の何と言う雑誌に出てたという人が出てくるんだけど、じゃ、それで流行ったのか?おまえはそれ見てその言葉を使ったのか?っていうさ。「〜系」という言葉は系統・系列を表す日本語として存在するわけで。だから「ヴィジュアル系」なんていう言葉は誰が作ってもおかしくはないわけですよ。「インダストリアル・ミュージック」や「ポジティブ・パンク」に比べると全然インパクトないし安易な言葉。そもそも音楽じゃなくても通用する言葉じゃん。だから昔どこそこに載ってたなんて言っても全然浸透しなかったじゃん、当時は。誰も覚えてないもん。だから古い雑誌にそういう言葉が出てこようが、それは一時的な企画モノとして使われてただけの話だと思う。だから今音楽文化の一つとして認知されている「ヴィジュアル系」はさ、そういう界隈から生まれた言葉じゃなくて、全く別のところで生まれたんだと思う。
──「ヴィジュアル系」という言葉が世に出てきたのって、90年中盤のSHAZNAがヒットして来た頃だもんね。
昔の黒服・お化粧バンドとそのファンは、ぶっちゃけSHAZNAとそのヴィジュアル系っていう言葉が嫌いだったじゃん。差別とは行かないまでもどこかイロモノとして迫害されてる感じ?当時のそういう風潮はさ、「ヴィジュアル系四天王」じゃないけどメディアがそういう俗語作って捲し立ててるなぁ、と思ってたんだよね。だから、思うのは電○起源説。
いつの間にか自ら「○○」を名乗る人たちが増えた。
──電○とはこれまた凄いとこくるなぁ。
「ガテン系」って流行ったでしょ?
──ああ、肉体労働系の職種の。
リクルートが91年に就職情報誌『ガテン』を発行するわけ。バブル期に流行語として「3K(危険・汚い・キツイ)」なんて言われた職種のイメージアップだったんだけど、この「ガテン系」という言葉がその語感とともに異様に流行って。これは「ガッテンだー(合点)」から取った新俗語なわけ。それで世の中負けじとなんでもかんでも「〜系」を付けて新たな言葉を生み出すようになったんだよね。揚げ句、当時のギャル語会話だと「今日渋谷行っちゃう系?」「用事あるから行かない系」とかね、もう会話なのか日本語としてどうなのっていうくらい流行りましたさ。
だからお化粧しているバンドたち、ムーブメントをメディアが一般層に紹介するために産まれた言葉が「ヴィジュアル系」なんじゃないかって。先述のように言葉自体は安易だし。そっち方面の雑誌は一切関係ないと思うよ。それがいつの間にか一般化してみんな使うようになって、後付けで色んな語源説が産まれてる。
──あー、「オタク(ヲタク)」と同じかもね。昔は一般の人たちから見た一部マニアックな趣味を持つような人たちを指す、捉えようによっては白い目で見るような意味合いもあったけど、いつの間にか自ら「ヲタク」を名乗る人たちが増えた。
現に、前も言ったけど雑誌『音楽と人』1994年11月号では小山田圭吾のことは「渋谷系」と呼んでいて、hideのことは「美学系」って呼んでる。しかもこの対談の聴き手は一時期「ヴィジュアル系の名付け親」とも噂された市川哲史さん。だからこれは1994年の段階では「ヴィジュアル系」なんて言葉は存在してなかったに等しい。ん、今思うと「美学系」ってカッコイイな。
──「ヴィジュアル系」の語源はhideという話もあるのに。
だからそれは完全に後付けというか、もはや都市伝説でしょう。ここ5,6年で急速に広まった話。「ヴィジュアル系」って誰が言い始めたんだ?って話になったときに、Xの「VISUAL SHOCK〜」というのが見つかってこじつけた。
hideが生前「ヴィジュアル系」を使ってるのなんか聞いたことないし、あの人って寧ろそういう偏見によるジャンルの壁を壊そうとしてた人でしょ?実際自分が化粧していることによって伝わるものも伝わらないと嘆いていた部分もあったし。自己表現、芸術表現の一つとして化粧してたわけで。だからインタビューとかX時代から結構ノーメイクで露出してることも多かったし。
そもそも「VISUAL SHOCK〜」はhideが作ったとされているけど、市川哲史さんとの対談ではYOSHIKIが「おれが作った」と言ってるし。
──良くも悪くも神格化されてしまった感があるからなぁ、hideは。
ロキノン vs アイドル
──そういう意味では「ロキノン系」も同じような系譜というか、いつのまにか一般化した言葉というか。
90年代後半のブリットポップブームがあって、“UK=カッコイイ・オサレ”みたいな。この間の記事じゃないんだけどそういう洋楽ファンの「洋楽は音の厚みが違うよねー」という声に対し、「日本のロックだって負けてねーぞ」という風潮が産まれて。夏フェスで外タレバンドと日本のバンドが同等のステージに立って良い意味で同じ舞台に立つことに良くも悪くも勘違いが生まれたよね。その辺を上手く囲っていったのがロッキング・オン・ジャパンだったり。でも、洋楽ファンからしてみれば、ロクに洋楽知らないのにロックの多くを語るな、というかさ、日本のバンドしか知らないのにロックの全てを知った気になっている層を指す言葉というか。皮肉めいた意味を込めて「ロキノン厨」なんて呼びだしたけど。2chかニコニコ動画だか解らないけど、でもこれ最近ここ数年の話じゃない?「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」がいつのまにか“RIJF”じゃなくて“ロッキン”なんて言うようになったのもここ数年。
ロッキング・オン・ジャパンがやることじゃねぇだろ
──ロキノンと言えば、今年のCDJにアイドル出まくるじゃん?
あー、その話ねー、やっぱそこいくよねー、あれはね、正直凄いカッコ悪い。ダサイ。
──でもアイドルとロックのジャンルの壁が無くなってきた最近の風潮の象徴でもあるように思うけど?
そこに関しては、まぁ、偏見をなくす、間口を広げると言う意味ではアリといえばアリなんだけど、ロッキング・オン・ジャパンがやることじゃねぇだろっていうのが正直なところ。
──それ、単純にROJがキライだからでしょ?(苦笑)
いやぁ、好きか嫌いかと訊かれれば「大キライ」と応えるけど。市川 vs 山崎時代があって。市川さん退社後は黒服方面排除の方向に行ったじゃない?赤髪のエイリアンの人とか、永遠の中二病ロッカーの人ともトラブったし。その時点で既に印象悪いんだけど、そこはあくまで個人の意見だからさ。何度か言ってるけど、でもそれによって、いち雑誌にとどまらない、「ロキノン系」と呼ばれる音楽シーンを作った、それは好き嫌いじゃなくて凄いことだと思うわけですよ。
──囲ったからこそ生まれたカルチャーシーンでもあるか。そんな中、グレッチの人や一緒に象に乗って飛ばないか?の人もトラブってたけど。ロック雑誌界の「フライデー事件」のような。
アウイエ!の人もね。まぁ、その辺でブレてた部分もあったけどさ、でもそこは逆に考えれば八方美人な優等生雑誌社よりも何かある意味、拘りみたいなモノを感じてたわけですよ。メディアや媒体は賛否両論、少しアクがあったほうがいいし。
ももクロがじわじわ来始めた頃に「ももクロはロックだ!」なんて一番最初に言い出しそうだったのに取り上げなかった。だからなんだかんだいって硬派なポリシー持ってやってるのかなとも思ったんだけど、、、でも、その結果がこれだよ!
──アイドルがフェスに出ることは今や珍しくないわけで、その風潮に遅れて乗った感はある。
ほら、J-WAVEがあれほど流行ってたビーイングやエイベックスをかけなかったわけじゃん、アイドルやヴィジュアル系も。そういうポリシーをさ、、、結局みんなと同じじゃねぇか。
そういえば、J-WAVEと似たスタンスだった、FM802もいつの日からかミナミホイールにアイドル出まくってたけど今年出てなかったなぁ。
──その、J-WAVEがアイドルをリリースするとか
ね?ちょっと、、、うーん時代なのかな。
──サマソニはどうよ?
ほら、サマソニってコンセプトは“都市型フェス”っていうだけで、全ジャンル網羅、ロックあり、R&Bあり、Hip Hopあり、ヴィジュアル系出るし、お笑いステージもあるくらいだから、別にアイドル出ても何が出てもおかしくない。
──確かに、RIJF/CDJは暗黙の諒解でそういう匂いがあるバンドが出演しているから、アイドルが出演する理由が見えづらいよねぇ。誌面で扱ってないアイドルが出演しても説得力に欠ける。
もうあそこは本体の雑誌とフェス事業は別会社みたいなものなのは解ってるんだけど。
更に、メンツ見ても明らかに選んでる感じしなくて、アイドル抱えてる事務所に手当たり次第声掛けてみて、スケジュール空いてる、事務所が今後推したいグループが出ます感が満載ですやん。夏のときに感じた十把一絡げ感が倍増した感じ。ロックフェスにアイドルが出演することは悪いことではないと思うんだけど、やっぱり理由付けみたいなものは欲しいところだと思うわけ、LOUD PARKにBABYMETALはジャンル繋がりで出るのは解るし、OZZ FESTだって、ももクロしか出てないわけだから、ももクロじゃないといけない理由があったはず。だから誰でもいいから取り合えず出しとけみたいなのはちょっと、、、
──そこはファン層をある程度見据えて選ばないと、これはアイドルに限らずだけど。
例えば、某レコードショップの名物ヲタ社長とかさ、ああいうロックもアイドルも精通していて地位もある人が企画すれば容易だと思うんだよね、ロック+アイドルのフェスみたいなの、でもやらないわけよ。なんでやらないのかと言えば、そこは別腹で楽しみたいから。完全に別畑で、演者も見てる人もノリも全てが違う別の空間だから無理に結びつける必要性が感じられない。
──ラーメンとパスタは同時に食べたくない感覚か。そう言えば、モーニング娘。をサマソニにみたいなことも誰かが、、
あれ、著名な人の発言することじゃないよね、発言だけじゃなくて、何かアプローチしたのか。ちょっと何?ってとこもある。ヲタでもファン代表でもなんでもないじゃん。ああいうのねぇ、なんかロックのほうが格上で、そこにアイドル出してやるみたいな感じっていうの、本人はそういうつもりじゃなくとも、そう感じ取れるというか、何か浅はかな中途半端思考だなって。そもそもサマソニの日は毎年ハロコンやってるんだよ!とかさ。それに娘。自体がどうのというわけじゃないんだけど、だったらBuono!が生バンドでサマソニってほうが自然でしょう、普通は。
──数年前のアイドルがロックフェスに出るなんてことが夢のまた夢だった時代の「メロン記念日を夏フェスに!」みたいな。
そうそう、モーニング娘。に『大阪 恋の歌』っていうあまりファンには人気がない曲があるんだけど、それをモチーフにした『モーニング娘。がロックフェスに出演したら』みたいな動画が昔あったの。歌だけ抜いてバックをロックバンドアレンジにしてあって、娘。のライブ映像とフジロックの客席の映像を掛け合わせているファンが勝手に作ったヤツなんだけど。あれカッコよかったんだよなぁ、今は消えちゃったけど。アレンジも映像も凄い良かったけど、元々の素材が良くなきゃね。
ああいうのを夢見てた時代もあったけど、いざなってみると今は何となく違うよね。
変な風潮が早く終わらないかなと
──実際、ロックフェスの客層から見るアイドルってどうなんでしょ?
もうすでにサブカルを中心とした媒体が「ロックファンがアイドルソングを聴くことは恥ずかしくない」ことを散々提唱し続けたでしょう。だからそれが響いてる人はとっくに聴いてるだろうし。でもやっぱりまだ届いてない人も、興味はあるんだけどきっかけのない人もいるのも事実。でもその辺も新規顧客層は極地的に攻めないと意味ないと思う。今、フェスの客ってアイドルに限らず、フェスで見てカッコよかったからワンマン行こう、CD買おうって言う風に考えてないよね、その場が楽しめればOKみたいな。
毎年バラバラな人たちが出るフェスと違って、ことロキノン関係はレギュラー枠とその近辺の音楽が好きっていう明確な趣向がハッキリしてるからなんだかんだお目当てがあるし。何かこのフェスの特徴としてフジやサマソニの客と比べると、遊軍客、お目当て関係なく色々見たいと思ってフラフラしてる人が極端に少ない。
──実際、筋少やBUCK-TICKが出てもキビしかったからなぁ、、、
ね?だから、去年まで出てたそっち系のバンド今年全く出ないじゃん。sukekiyoはちょっと別だけど。だから、V系受けなかったから今年はアイドルかよ!っていうさー。もういいや、これ以上言っても文句しか出てこないから。
──最後にまとめると?
「真のロック好きの嗜みとしてアイドル聴かなければ、語ることが出来なければならない」みたいな変な風潮が早く終わらないかな、と。