夏の風物詩と言える高校野球が終わったわけですが、甲子園でも野球応援に華を添えるのが吹奏楽部の野球応援。今年は茨城の常総学院が甲子園出場しておりましたが、やっぱり吹奏楽の超名門校は野球応援でもハンパなく上手い。甲子園同様、吹奏楽コンクール予選真っ盛りでもあり、密かに元吹奏楽部員も自分の母校のコンクール結果が気になる所じゃないでしょうか。
そこで、今日は「元吹奏楽部員が思わず腹式呼吸したくなるブラスバンド」特集。
とは言え、ウチのことですからジャズだったり普通のロックのブラスバンドを紹介したところで面白くありません。
〈世界のロックから〉ということで、ジプシー・ミュージック、ロマ音楽を焦点に当て、Balkan Brass(バルカン・ブラス)またの名を、Gypsy Brass(ジプシー・ブラス)に注目していきたいと思います。
ジプシーと聞くと、スペインのバスク音楽やフラメンコ、ラテンと混同してしまいがちですが、吹奏楽部的に言うと、レスピーギ感と言いましょうか、『ローマの祭り』の主顕祭や『シバの女王ベルキス』みたいな、『ガイーヌ』のレズギンカみたいな、みんな好きだろ?テンション上がるだろ?
バルカン・ブラスとは?
ヨーロッパ、バルカン半島の東欧諸国を中心に独自の音楽性を持つブラスバンド形態。アメリカのきらびやかなブラスアンサンブルとは違い、変則リズムとどこか民族的要素、土っぽいものが多い。元々はオスマン帝国時代より音楽が盛んだったセルビア人の軍楽隊が休憩時間に民謡を演奏していたのが始まりと言われ、その後、移動民族“ロマ民族”がジプシー・ミュージックをもたらし、トルコ軍楽隊の影響もあり、それらの音楽が融合し発展したと言われている。
アメリカのブラスバンドがピストンバルブのトランペット、チューバ、ユーフォニアムが中心なのに対し、通称「横ラッパ」と呼ばれるロータリートランペット、ワグナーチューバ系のロータリーバルブの楽器が多く使われる場合が多い。こちらのほうが柔らかく、あたたかい音が出る。クラシックの世界でもドイツ、オーストリアの音楽を演奏するには、ピストンよりもロータリーを使用することが多い。
この手のロータリー楽器の名器と呼ばれる多くは、V.F.Cerveny(チェルベニー:チェコ製)、Kruspe(クルスペ:東ドイツ製)、など、東欧諸国メーカーが多いのも特徴。
管楽器経験のない人にとってはなんのこっちゃという話であると思いますが、ギターで例えるのなら「フェンダーやギブソンなどのアメリカ製よりも、ドイツのヘフナー等の箱モノのほうが音楽的にもマッチしますよ」という話。
近年ではユーゴスラヴィアを舞台に第二次世界大戦から内戦までを描いた、超名作映画『アンダーグラウンド』(監督:エミール・クストリッツァ1995年)のサウンドトラックにロマ音楽、バルカン・ブラスを基調とした、バルカン・ビートと呼ばれる独自の音楽を展開しており、世界的にブームとなりました。
日本でも根強いファンが居るジャンルです。
セルビアの小さな村、Guča(Guca,グチャ、首都ベオグラードから車で5時間、人口:約2000人)で1961年から毎年続く『Dragačevski Sabor』(ドラガチェヴォの集い、英:Guca Serbian Brass Band Festival, Trumpet Festival)というバルカン・ブラスのイベントがある。2000人の街に世界各国から30万人の人が集まる。
さて、前置きはさておきそろそろ行きましょうか。
アンブシュアを引き締めてご堪能ください。
Beirut
まずは洋楽インディーファンにも人気の高い、USニューメキシコ州サンタフェ出身の Beirut(ベイルート)
フォーク要素の高い歌モノバンドとして知られていますが、元々はZachary Condon(ザカリー・コンドン)のソロプロジェクトとして始動。
アルバムを出す毎にコンセプト等、音楽の幅を拡げてはおりますが、土台としてあるのはジプシー、バルカンミュージックです。
さてさて、ここで「これぞバルカン・ブラス!」という代表的なバンドを2つ。
Boban i Marko Markovic Orkestar
ジプシーブラス界屈指の人気トランペッター、Boban Markovicとその息子、Markoとの父子名義で活動する、セルビアのBoban i Marko Markovic Orkestar(ボバン&マルコ・マルコヴィッチ・オーケスター、オルケスタル)
先述の映画『アンダーグラウンド』のサントラで世界的に有名になりました。
父・ボバンの確固たる腕と伝統音楽に対する姿勢を、子・マルコの若さ溢れる卓越したセンスで斬新に切るという、ジプシーブラス最高峰と呼ばれるバンド。
http://www.youtube.com/watch?v=l5Teiu7xzE8
Fanfare Ciocărlia
ルーマニアのバンド、Fanfare Ciocărlia(Fanfare Ciocarlia, ファンファーレ・チョカルリア)
日本で一番有名なジプシー・ブラスバンドでしょう。映画『ジプシー・キャラバン』にも登場してます。
čoček(チョチェク、キュチェク)と呼ばれるロマ音楽の形態で、主に9/8拍子(gypsy 9)という複雑なリズムを持つ、「世界最速のブラス」と呼ばれる豪快且つ、華やかなブラスセクションが特徴的なバンド。
かのオスマン帝国君主、スルタンは「大音量(楽器・演奏)で敵を威圧すれば大砲を使うより安く、無駄な兵力を使うことがない」と、トルコ軍楽隊(メフテル)の音楽育成に大きな影響を与えた。それがチョチェクに見られるようなジプシーブラスの複雑なリズムを生み出したとも言われている。
ちなみにBoban i Marko MarkovicとFanfare Ciocărliaがコラボ対決しております。その名も『BALKAN BRASS BATTLE』企画的にはビック・バンド対決、デューク・エリントン楽団とカウント・ベイシー楽団が共演対決した『First Time: The Count Meets the Duke』のノリで縦横無尽にバルカン・ブラスが鳴り響く、快作です。
そして、進化するバルカン・ブラス、新世代と言われるバンドを3つほど。
Mahala Rai Banda
ルーマニアの新世代シプシーバンドと言われている、Mahala Rai Banda(マハラ・ライ・バンダ)
共産主義時代の軍楽隊とポスト冷戦時代の西欧文化の若手が組み合わさった新しいタイプのジプシーバンド。
バルカン・ブラスのカッコ良さとジプシー音楽の哀愁感、この両方の良いとこ取りと言う感じ。
Traktorkestar
Traktorkestar(トラクターケスター?読み方解りませんトラクターとオーケストラを合わせた造語)スイス、ベルンのバンドです。
先述のバンドに比べると、ジプシー寄りと言いましょうか、独特の哀愁感、ニューフォーク要素も上手くミックスされ、良質な素朴さを感じさせるバンド。
世界各国から集まる、先述のGuca Festivalで注目を集めた。今後の活躍が期待されているバンドです。
iTunes
!DelaDap
感嘆符(エクスクラメーションマーク)が頭に入ります、“!DelaDap”(デラダップ)
2014年に改名して、感嘆符なしのDelaDap(デラダップ)になりました
チェコ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ロシア、、、というメンバーが混在するオーストリア、ウィーンのバンド。
王道のジプシーミュージックながらもタンゴにブレイクビーツを掛け合わせ、時にエレクトリック、元々のジプシーのリズムを電子リズムで解釈してオサレ要素満載に仕立て上げている面白いバンド。
まさにこの発想なかった的な。正直、ジプシーミュージックはアクの強い部分もあり好みも分かれるところだとは思いますが、このバンドは一つのダンスポップミュージックとして成立させてますね。そして本来のジプシーの良さは失われていないという。
そして、ジプシーと言えば、移動民族の音楽。演奏場所にとらわれないことも一つの魅力ということで、最後に楽しげなストリートライブの映像を。