「オクタゴン vs アイドル」を観て「アイドルってスゲーだろ!」と自慢したくなった @ギュウ農フェス

4月8日、<オクタゴンスピーカーの驚音 vs ライブアイドル!>という前代未聞の試みが行われた、電撃ネットワークのギュウゾウ氏主催『ギュウ農フェス春のSP ロード to 栃木2018』。ロックファンでも絶対目にしているであろう、新木場STUDIO COASTの天井から吊るされた真っ赤でゴツくてすごいヤツ、ageHaのオクタゴンスピーカー(Octagon)を、クラブ営業ではない通常のライブで使用した、しかもアイドルで、だ。

それは、アイドルという文化が音楽的なところで高い水準に来ていることを、言葉だけでなく、ちゃんとした形で証明した意味合いがあったように思う。

とくにMIGMA SHELTERのステージの様相は「アイドルライブの次元を超えた空間」であったことは、あの場にいた誰もが感じたはずだ。

べつに今さらアイドルが音楽的にどうというわけではなく、コアな音楽ファンに好まれていたりするのは、もはや説明する必要もないのだが、なんだかんだ偏見がある文化であることは事実であるし、その偏見は、この先もなくなることはないだろう。よく言われる「アイドルを超えた〜」といった表現を、一部の人たちが好ましく思わないのは、アイドルに造詣があるからであって、逆にアイドルに偏見、ないし固定観念を持っている層に対しては大変有効的な言い回しでもあるのだ。それは私自身が身を持ってよく感じている。やたらいろんな音楽に詳しいマニアな人や大手メーカーや音楽事務所でバリバリ働いている業界人であっても、「サイリウムを振らないアイドルのライブが、新宿LOFTや下北沢のライブハウスで日々行われている」ことを知らない人は、実際ものすごく多いのである。表面上はアイドル文化を理解していても、実際何が起こっているのか知らない、そういった層には、今回の「あのSTUDIO COASTの真っ赤なヤツ、オクタゴンスピーカーを使用したライブ」ということは、実際の影響力はひとまず置いておいて、「なんかすごそう」と思わせる既成事実として恰好だったのではないだろうか。

インディーアイドルシーンのショーケース

同時に今回の『ギュウ農フェス』は現在の“ライブアイドル”という現在のインディーアイドルシーンのショーケースだったとも感じた。イベンターでもなければ、シーン屈指の関係者というわけではない、いちアイドルファンとしてのギュウゾウ氏主催だからこそのメンツ、とも感じたし、だからこそオクタゴンを使うところに至ったようにも思う。

オクタゴンはEDM、クラブミュージックなどのデジタルサウンド向けのスピーカーシステムである。そのため、終盤のオクタゴンを使用したライブとは別に設けられた、メインステージ中盤のオルタナティヴロックタイムというべき枠も、そんなシーンを象徴するハイライトであった。

There There Theresは、“学芸会以下”と言われたBELLRING少女ハート時代から良い方向に脱却しつつある。キレのあるパフォーマンスと、どこかおどろおどろしさを兼ね備えたステージは不気味さを増し、新たなフェーズに突入しているのは目にも明らかだった。何やら新体制を企んでるようであり、洋楽ロック好きにはたまらない珠玉の楽曲を武器に快進撃が始まろうとしている。そして、There There Theresがオルタナティヴロックアイドル界の“黒”であるなら、“白”はヤなことそっとミュートだ。耳にへばりつくようなグランジィなディストーションサウンドと止まることを知らない疾走感の応酬。この日もありえないくらいの爆音轟音音響であったが、焦燥感で胸を締め付けられるような気分になりながらも、どこか爽快な心地よさを味わえるのだから不思議だ。ゼアゼアとヤナミュー、いまロックファンがもっとも注目すべき2組である。

この枠の事実上のトリであり、この日通して、一番のフロア密集率を見せただったのはBiS。プー・ルイ卒業公演のアンコールの新体制で振り飾りした新曲「WHOLE LOTTA LOVE」を観て感じたあの期待を裏切らぬステージだった。メンバーの力量はもちろんであるが、こうしたさまざまななグループが集結するイベント出演の流れで観ると、あとのGANG PARADEしかり、“WACK”といういまや確固たるアイドルブランドとなった屋台骨を魅せつけられたように感じた。

さて、オクタゴンスピーカーのお出ましだ

「怪物音響オクタゴンスピーカーが降りてくるぞ!!」

MCのギュウゾウ氏の声に天井からゆっくり降りてきた“ヤツ”のメカニカルな風貌は、かつて子どものころに憧れた近未来のSFロボットアニメ的でもあり、男のロマンをくすぐられる。“真っ赤な機体”と表したくなる造形美は、ガンダム世代の私にとっては、ファンネルとハイメガ粒子砲を兼ね備えた得体のしれない巨大なモビルアーマーのようであり、“オクタゴン”というネーミングもどこかウルトラ怪獣のようで実にいい。

先ほどとは明らかに別の場所から音が噴出している感覚を、耳よりも身体で感じながら登場したのは、校庭カメラガールドライだ。正直、序盤はライブがどうという感覚よりもオクタゴンの威力に圧倒された感が強い。数年前にageHaのイベントに出向いたことはあるものの、このオクタゴンを体感したのは初めてであり、アイドルどころか明らかにアーティストのライブでは味わったことのない感覚に見舞われた。

RHYMBERRYしかり、「解像度が高くなったようなデジタルサウンド」と「地響きの起こる低音」をうまく利用した感はあった。反面で要所要所“アイドルとしてのヴォーカル”を活かしきれてないようにも感じた。端的に言えば、歌がオケに負けてしまってるところもあったのだ。とくに、唯一バンドサウンド(とはいえ、エレクトロニカ〜フォークトロニカ寄りではある)で挑んだamiinAは、人間の聴覚上聴き取れないような超低音を床の振動から味わえるという、思わず笑っちゃうくらいの体験をさせてくれたが、そんな怪物音響をコントロールしきれない部分も目立ち、何よりステージ上の本人たちが歌いずらそうな場面も多々見受けられた。GANG PARADEは、EDM寄りのサウンドとはいえ、ちょっと荒削りでハイミッド&ローミッド寄りのパンクロック音像、というWACK特有のサウンドプロダクトは、正直「あまり相性がよくないかも」とも思ってしまった。

とはいえ、このとき、この場所が特別なだけであり、どのグループも普段絶対に味わえないであろう、贅沢な空間を愉しんでいた。もちろん、オーディエンスもだ。

そして、やはりサイケデリックトランスの音楽と、目先の目標としてageHaワンマンを掲げているMIGMA SHELTERは圧巻だった。普段のライブを更に強化したような音響はオクタゴンを完全に熟知しているような気さえしてしまったし、tofubeats、水曜日のカンパネラなど手がける空間演出ユニット、huez(ヒューズ)によるありえない数のレーザーも相俟って、完全に宇宙空間を作り出していた。

対称的に、アイドル × ダンスミュージックという“いま”を切り取ったような CY8ERの、アイドル特有のキラキラオーラを、EDM、Future Bassで叩きつけてくるステージは、“Kawaii系のバイオレンス”というべきものであった。ゆるめるモ!しかり、楽曲構造をオクタゴンサウンドに合わせて分解し、再構築を施したような新鮮な感覚で聴くことが出来たのは貴重であった。

大体のステージをフロアで観ていたのだが、ふと後方の上がった場所から望むと、音像の印象が異なっていた。オクタゴンの超低音、超高音などイヤな部分が露見してしまうというべきだろうか。それはオクタゴンに限らず音響的には致し方ないことなのだが。

細かいことはべつにして、終わってみれば、とにかく「ものすごいものを観た」という充実感がハンパなかった。

演者にとってもオーディエンスにとっても、向き不向き、万人受けするとは言い難い部分もある音響なので、いろいろな感想があるとは思うのたが、そういう意味でも大きく意味があったはすだ。

アイドルという、自由闊達な芸術表現が成り立つものだからこそ、実現したことであったと思うし、それは冒頭に述べたような“そういう域まで達している”ということであると思う。

なんかもう全音楽ファンに「アイドルってスゲーだろ!」と自慢したくなったし、まだアイドルの魅力を知らない輩には「ざまぁみろ!」なんて言いたくなるほど凄いもの観た、聴いた、最高だった。

Orbit Ep
MIGMA SHELTER
Aqbirec
Release: 2017/12/26

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