クイーンとセックス・ピストルズ 英国2大バンドが掲げたそれぞれの「女王陛下」

伝説のバンド・クイーン(Queen)のボーカリスト、フレディ・マーキュリーの波乱の半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が話題だ。空港のグランドハンドリングからロックスターへとのし上がっていてくサクセスストーリー。あくまで事実をもとにしたフィクションであるわけだが、華々しい生き様だけでなく、セックス、アルコール、ドラッグ……手に入れた名声の裏にある孤独な苦悩も赤裸々に描かれている。そして、何と言っても完全再現されている『LIVE AID』の演奏シーンは、クイーンファンならずとも、ロック好きであれば胸が熱くなるはずだ。




「ドン、ドン、パッ」と、三拍子のリズムにあわせ、足を踏み鳴らすストンプとハンドクラップを組み合わせた「We Will Rock You」の誕生秘話も、事実とは異なるところがあるが、映画の印象的なシーンのひとつ。同曲は「伝説のチャンピオン」(We Are the Champions) とあわせて、サッカーを中心にスポーツ観戦における応援歌としても今なお世界中で愛され続けている。この2曲が収録されているアルバム『世界に捧ぐ』 (News Of The World) がリリースされたのは、1977年10月28日。この日にもう1枚、ロック史上において欠かすことのできないアルバムが同じイギリスでリリースされたことを知っているだろうか。セックス・ピストルズ(Sex Pistols)、最初で最後のオリジナルアルバム『勝手にしやがれ!!』(Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols) である。

News Of The World (2011 Remaster) Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols

Queen vs Sex Pistols

いにしえのロックを高い演奏技術と独自の発想で昇華したクイーンと、技術に囚われず既成概念をブチ壊す反骨精神を提示する新しい潮流“パンク”を掲げたピストルズ。いわば、オールドウェーヴとニューウェーヴだ。そんな相反するこの2バンドにまつわるエピソードは数知れず。フレディの歯の不調のため、キャンセルしたクイーンの代わりにテレビ出演したピストルズが放送禁止用語を連発。それが逆にブレイクのきっかけとなったと言われる「ビル・グランディ事件」であるとか、同じスタジオでレコーディングをしていたため、廊下ですれ違うたびに衝突していた、などなど。

語り継がれるセックス・ピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスとフレディの一触即発劇しかり。その会話内容に関しては、取り上げられているメディアにより少々脚色されているところもあるので割愛するが、クイーン『世界に捧ぐ』とセックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』は、同じ時期にロンドンの教会の礼拝堂の一部にあるウェセックス・スタジオでレコーディングされていたことは事実である。もっともこの2バンドは一時期、同じ<EMI>のレーベルメイトでもあった。

この2枚のアルバムには、偶然にも妙な共通項がある。それはオープニングだ。『世界に捧ぐ』は、先述の「We Will Rock You」の「ドン、ドン、パッ」とストンプ&クラップで始まるわけだが、『勝手にしやがれ!!』の1曲目「さらばベルリンの陽」(Holidays in the Sun)も踏み鳴らされる足音から始まっているのだ。ミュージックビデオでは、フロアを揺らすオーディエンスとして表されているのだが、レコードを聴く限りでは、そのタイトルが連想させるのだろうか。戦場へ向かう兵士か、はたまたデモ行進の群衆の足音か、とにかく不穏な空気を感じざるを得ない。




それぞれの ‘God Save The Queen’

70年代のイギリスといえば、産業の国有化政策や社会保障制度、俗に言われる「ゆりかごから墓場まで」が結果として国際競争力の低下を招き、慢性的な経済の停滞に陥っていた。国民の勤労意欲低下により世界から「英国病」とせせら笑われていた時代。であるから、反体制的なロンドン・パンクが生まれたのも自然なことであるのかもしれない。クイーンが英国病だなんていうつもりはないのだが、世界中のアリーナを回るロックスターは「おれたちは勝者(We Are The Champions)」と高らかに歌い、荒くれ者の若い新人バンドは「未来なんてねぇ(“No Future”- God Save The Queen)」と痛切に叫んだ。不況真っ只中の当時のイギリスにおいて、明日を担う血気盛んな若者たちがどちらのバンドを支持したのかは言うまでもあるまい。同日リリースのこの2枚のアルバム、『勝手にしやがれ!!』は全英ミュージック・ウィークチャート1位、『世界に捧ぐ』は2位だった。逆にアメリカでは『世界に捧ぐ』がビルボードチャート3位、『勝手にしやがれ!!』は100位圏外だったことが興味深い。

セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスは、この翌年の1978年2月2日、オーバードーズでこの世を去った。フレディがエイズで亡くなったのは、それから13年後の1991年11月24日だった。

今となれば、どちらのバンドが優れているとかそういう次元で語ることはできないわけだが、当時の流行などを思い起こしてみると、新たな発見や違った聴き方ができるかも知れない。

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)
Queen
Virgin EMI
Release: 2018/10/18

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クイーンとセックス・ピストルズ 英国2大バンドが掲げたそれぞれの「女王陛下」

伝説のバンド・クイーン(Queen)のボーカリスト、フレディ・マーキュリーの波乱の半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が話題だ。空港のグランドハンドリングからロックスターへとのし上がっていてくサクセスストーリー。あくまで事実をもとにしたフィクションであるわけだが、華々しい生き様だけでなく、セックス、アルコール、ドラッグ……手に入れた名声の裏にある孤独な苦悩も赤裸々に描かれている。そして、何と言っても完全再現されている『LIVE AID』の演奏シーンは、クイーンファンならずとも、ロック好きであれば胸が熱くなるはずだ。




「ドン、ドン、パッ」と、三拍子のリズムにあわせ、足を踏み鳴らすストンプとハンドクラップを組み合わせた「We Will Rock You」の誕生秘話も、事実とは異なるところがあるが、映画の印象的なシーンのひとつ。同曲は「伝説のチャンピオン」(We Are the Champions) とあわせて、サッカーを中心にスポーツ観戦における応援歌としても今なお世界中で愛され続けている。この2曲が収録されているアルバム『世界に捧ぐ』 (News Of The World) がリリースされたのは、1977年10月28日。この日にもう1枚、ロック史上において欠かすことのできないアルバムが同じイギリスでリリースされたことを知っているだろうか。セックス・ピストルズ(Sex Pistols)、最初で最後のオリジナルアルバム『勝手にしやがれ!!』(Never Mind the Bollocks, Here’s the Sex Pistols) である。

News Of The World (2011 Remaster) Never Mind The Bollocks, Here’s The Sex Pistols

Queen vs Sex Pistols

いにしえのロックを高い演奏技術と独自の発想で昇華したクイーンと、技術に囚われず既成概念をブチ壊す反骨精神を提示する新しい潮流“パンク”を掲げたピストルズ。いわば、オールドウェーヴとニューウェーヴだ。そんな相反するこの2バンドにまつわるエピソードは数知れず。フレディの歯の不調のため、キャンセルしたクイーンの代わりにテレビ出演したピストルズが放送禁止用語を連発。それが逆にブレイクのきっかけとなったと言われる「ビル・グランディ事件」であるとか、同じスタジオでレコーディングをしていたため、廊下ですれ違うたびに衝突していた、などなど。

語り継がれるセックス・ピストルズのベーシスト、シド・ヴィシャスとフレディの一触即発劇しかり。その会話内容に関しては、取り上げられているメディアにより少々脚色されているところもあるので割愛するが、クイーン『世界に捧ぐ』とセックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』は、同じ時期にロンドンの教会の礼拝堂の一部にあるウェセックス・スタジオでレコーディングされていたことは事実である。もっともこの2バンドは一時期、同じ<EMI>のレーベルメイトでもあった。

この2枚のアルバムには、偶然にも妙な共通項がある。それはオープニングだ。『世界に捧ぐ』は、先述の「We Will Rock You」の「ドン、ドン、パッ」とストンプ&クラップで始まるわけだが、『勝手にしやがれ!!』の1曲目「さらばベルリンの陽」(Holidays in the Sun)も踏み鳴らされる足音から始まっているのだ。ミュージックビデオでは、フロアを揺らすオーディエンスとして表されているのだが、レコードを聴く限りでは、そのタイトルが連想させるのだろうか。戦場へ向かう兵士か、はたまたデモ行進の群衆の足音か、とにかく不穏な空気を感じざるを得ない。




それぞれの ‘God Save The Queen’

70年代のイギリスといえば、産業の国有化政策や社会保障制度、俗に言われる「ゆりかごから墓場まで」が結果として国際競争力の低下を招き、慢性的な経済の停滞に陥っていた。国民の勤労意欲低下により世界から「英国病」とせせら笑われていた時代。であるから、反体制的なロンドン・パンクが生まれたのも自然なことであるのかもしれない。クイーンが英国病だなんていうつもりはないのだが、世界中のアリーナを回るロックスターは「おれたちは勝者(We Are The Champions)」と高らかに歌い、荒くれ者の若い新人バンドは「未来なんてねぇ(“No Future”- God Save The Queen)」と痛切に叫んだ。不況真っ只中の当時のイギリスにおいて、明日を担う血気盛んな若者たちがどちらのバンドを支持したのかは言うまでもあるまい。同日リリースのこの2枚のアルバム、『勝手にしやがれ!!』は全英ミュージック・ウィークチャート1位、『世界に捧ぐ』は2位だった。逆にアメリカでは『世界に捧ぐ』がビルボードチャート3位、『勝手にしやがれ!!』は100位圏外だったことが興味深い。

セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスは、この翌年の1978年2月2日、オーバードーズでこの世を去った。フレディがエイズで亡くなったのは、それから13年後の1991年11月24日だった。

今となれば、どちらのバンドが優れているとかそういう次元で語ることはできないわけだが、当時の流行などを思い起こしてみると、新たな発見や違った聴き方ができるかも知れない。

Bohemian Rhapsody (The Original Soundtrack)
Queen
Virgin EMI
Release: 2018/10/18

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