Takuya Nagabuchi × 冬将軍『ほんまにうち会いたかったん夜』を終えて

Takuya Nagabuchi × 冬将軍『ほんまにうち会いたかったん夜』、たくさんの方にご来場いただきまして誠にありがとうございました。私、“長渕剛本人のインタビューも手がけるライター”冬将軍でございますが、実際インタビュー記事などを読んで誰が書いてるか気にしてる方は少ないと思います。そういう意味でも来場していただいたTakuyaファン、剛ファンにとっては「誰だお前?」状態だったのではないかと。

そんなアウェイ状態でしたし、そもそも私、文字は書いても人前で喋ることには慣れてはおらず……。そんな中、あたたかく迎えてくださりありがとうございました!そして、剛さんのこと書いてるわけでもないしなと、売れるかどうか半信半疑だった私の著書『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』もあっという間に完売!買えない方もかなりいらっしゃったようで……大変申し訳ございませんでした。書店やAmazon、楽天などで購入できますので、ぜひよろしくお願いいたします。

知られざるヴィジュアル系バンドの世界
冬将軍
星海社
Release: 2022/08/23

Amazon Rakuten

TakuyaさんのYouTube番組『Radio Tube』でよく拝見しているお名前の皆様とも実際お会いできまして、感謝感激でございました!

そんなこんなで当日の雑感、感想などを少々。

Takuya Nagabuchiというアーティスト

Takuya Nagabuchi——。その存在を知ったのはいつだったろうか。7〜8年くらい前のことだったと思うが、たまたまYouTubeで見たその歌と映像を見つけた瞬間、一気に魅せられてしまった。声、パフォーマンス、ギタープレイ……どれを取ってみても絶品だった。特に『LICENSE』ビデオの再現を見て「この人、おかしいぞ……」(褒め言葉)と。

Takuya Nagabuchiは、もう長渕剛に似ているとかそういう次元ではない。“憑依している”なんて言われてはいるが、個人的にはもう“Takuya Nagabuchi”という1人のアーティストとして確立されていると思っている。便宜上、カバーアーティストと言われてはいるが、バンドアレンジ含めてさまざまなアレンジをギター1本で再現するなど、カバーの域を超えたそのプレイヤーとしてのテクニックは超一流で唯一無二である。




長渕剛COVER「銀色の涙とタバコの煙」【ルーパー演奏】



長渕剛COVER「OP〜明日へ向かって」【LIVE’87 LICENSE再現】



長渕剛COVER「JAPAN」【白の情景 JAPAN’93再現】



長渕剛「Keep on Fighting」【アコギソロまで再現】COVER

この人の歌を生で聴いてみたい——。そう思ったのは自然なことだった。YouTubeにアップされているものを貪るように見て、長渕ライブ会場周りでのストリートライブも観た。だが、私が本当に観たいのはライブハウス、きちんとした音響と照明があるステージで、だ。

Takuya Nagabuchiは名古屋在住ということで、なかなか東京に来ることはない。であるなら呼ぶことはできないだろうか。私の“長渕剛にインタビューしたライター”という実績を振れば、興味を持ってくれるのではないだろうか? ハコはどうしようか? そもそも規模感がわからない。長渕ライブ会場では数百人規模の人だかりにはなることはあるが、チケット販売でライブを行った場合、どれくらいのキャパでやるのがいいのだろうか。

そうこうしているうちに世の中はコロナになってしまった。

昨年私は自身初となる著書『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』を刊行した。90年代のヴィジュアル系バンドの黎明期を軸に、どう同シーンが発展したのかを書き綴ったものだ。発売に際し、いくつかのイベントを行った。それで声をかけてもらったのが大阪南堀江Knaveであった。スタッフの方が毎ツアー遠征するほどのBUCK-TICKファン、店長さんが大のBOØWYファンで、というまさに私の著書にドンズバだったのだ。

それから、ちょくちょくスタッフさんと与太話をLINEでするなど、仲良くさせていただくようになった。そこでダメ元で、Takuya Nagabuchiの話をしてみた。

「こういう人がいて、一緒にイベントやりたいんですよね」

先方は長渕ファンというわけではなかったのだが、快く話に乗っていただき、即日程を出してくれた。「土日がいいですよね」と言っていただいた候補日は9月30日。おお、長渕剛『Concert Tour 2023 OH!』ファイナル大阪城ホール公演の翌々日ではないか。この奇跡的なスケジュールに運命を感じたものだ。それにKnaveの同フロアには、GUITAR TRIBEというギターショップがある。現在の長渕バンドのリードギターを務めるICHIRO氏が、ギタービルダー・松垣孝秀氏(Velvet Guitar)とともに立ち上げたギターブランド“SLIP!!”のお店だ。長渕ファンにとっては聖地巡礼にもなるではないか。余談だが、イベント前日にICHIRO氏が「勇次」で必ず手に取る白のテレキャスタータイプ(ICHIROモデル)がツアーを終えてメンテナンスでお店に持ち込まれたらしい。イベント当日に店頭に飾ってもらえたら、などと思っていたのだが、松垣氏が持ち帰ったとのこと、残念……。

イベント当日。実際に初めて会ったTakuya Nagabuchiは、想像以上に大きかった。それは見た目だけでなく、アーティストとしての懐の大きさを感じられる人物だった。念入りにリハーサルを行う姿を食い入るように見学させてもらった。ギターはもちろんのこと、足元のルーパーを使ってオケを操る様、そして音響、照明……と念入りにチェックする。リハーサルとは思えぬ魂の籠った歌とギタープレイは、贅沢にも私だけのライブのようであった。

そしてツイキャスでのカメラワークのクオリティには毎度のことながら驚かされていたが、その映像収録のこだわりを感じられた。本人の足元には映像モニターが置かれており、てっきり歌詞などが表示されるプロンプターだと思っていたのだが、カメラ用のチェックモニターだった。ここまで自分の見え方にこだわりがあるからこそ、あのギターを持ったシルエットが生み出されるのだろう。

Takuya Nagabuchiとのトークセッション

イベントはトークセッションからスタート。こういう形式のイベントは初めてだと言っていたが、喋りに関しては私の何百倍もTakuya Nagabuchiの方が上手(うわて)だ。 “Nagabuchi”を名乗る覚悟など、基本的なスタンスから私が訊きかったことを中心に話を進める。終わってから思い出したが、イベントタイトルについて語るのをすっかり忘れていた。リハでは話していたのだが、大阪での長渕イベントということで、これしかないだろうというと私がつけた。ライブアルバム『LIVE ‘89』の「ほんまにうち寂しかったんよ」の冒頭で長渕が叫ぶ、「ほんまにうち会いたかったんよー!」と。わざと言ってるのか、楽曲タイトルを言い間違えているのか、リリース当初から物議を醸していたが、これはこの『昭和』ツアー時の挨拶でどこの会場でもそう言っていたという。

Takuya Nagabuchiの最大の武器は各時代の長渕の歌声を再現できるということだ。“フォークアイドル期”、“ロックバンド期”、“カリスマボイス期”、“生涯現役期”と4つの時代に分けて「乾杯」を歌う。多くの“なりきり長渕”や“モノマネ長渕”は、ここでいう“ロックバンド期”から“生涯現役期”を織り交ぜて長渕っぽさを出していたし、このように明確に歌い分けた人は初めてだ。しかも、長渕ファンでなくても思わず唸ってしまうわかりやすさだ。今の40代〜50代は義務教育のように“ロックバンド期”、“カリスマボイス期”を聴いていたし、誰もが知る大ヒットの名曲「乾杯」でそれをやるというキャッチーさ。そんな声の使い分けが生まれた秘話なども聞けた。

ギターキッズ垂涎のテクニック披露コーナーは鳥肌モノであった。Takuya Nagabuchiといえば、サムピックを使用せずに普通のフラットピックを使用したスリーフィンガー奏法だろう。アメリカのカントリー界にはフラットピックと指を使った“ハイブリットピッキング”と呼ばれる奏法があるが、フォーク的なスリーフィンガーをそれでやるギタリストはTakuya Nagabuchi以外に私は知らない。さらに個人的に気になっていた「乾杯」ニューバージョンのシンセアレンジをギター1本で再現するのを間近で見られてたまらなかった。Takuya Nagabuchiのギタープレイを間近で見て感じたのはとにかく丁寧で、実に軽やかなピッキングをするということである。本人のプレイを再現するには本人以上のテクニックが必要なわけだし、応用アレンジを考えるのなら尚更技術が要る。本人が勢いで行くところも、それを再現するなら計算しながらやらなければならない。歌ももちろんだが、長渕剛を再現するのなら本人以上に長渕剛でなければならないのである。

私からは、長渕剛本人インタビュー時のことなどを話させていただいた。過去にこういう話はしたことがない、本来はあまりするべきではないのかもしれない。特に長渕剛という人は誤解を受けやすい人でもある。しかしながら、ここに観に来ている人は長渕ファンだし、Takuya Nagabuchiファンだ。そういう意味でも長渕剛に理解力のある人たちだ。茶化しで長渕話を聞きに来ている人などいない。

筋金入りの長渕ファンである私がどういう気持ちでインタビューに臨んだのか、そして長渕本人はどういう人なのか。私がこの話を受けたときに最初は断ったこと、数時間に及ぶインタビューや、あたたかいおもてなしを受けたこと……。普段周りの知り合いにも話したことのないことまで話した。それはここにいる人たちへの信頼と、Takuya Nagabuchiの本気のリハーサルを見て心を突き動かされたかもしれない。

私は仕事で接するときは、相手が自分の憧れだろうがファン心をゼロで臨む。その切り替えは長年音楽業界で働いてきたから慣れている。贔屓目でもなんでもなく、長渕剛は真面目で実直で何事にも真剣で本気すぎるアーティストだった。

そのほか、細かすぎて伝わらない長渕話などをして時間はあっという間だった。予定では60分。ライブハウスからは「おそらく伸びるでしょう(笑)」ということで、20分の余裕を持ってタイムテーブルを組んでいたのだが、それをも優に超えてしまった。実はTakuya Nagabuchiとセッションをやる予定だった。光栄にもセッションのお声がけをもらい、最初はためらったが、一応ギターを持参してきた。しかし、長渕剛のご子息、ReNの愛用モデルと同じ、MARTIN LX1E“リトルマーチン”の出番はなかった。時間が押しているにも関わらず、ここでセッションをやったら中弛みになりそうな気がしたからだ。ここは、Takuya Nagabuchiのステージへと早く移ったほうがいいだろうと。

Takuya Nagabuchiライブスタート

Takuya Nagabuchiは事前に「リクエスト曲をセットリストに入れますよ」と言ってくれた。1、2曲選ぶのがベストだと思ったのだが、悩みに悩んで絞りきれずに結局4時代から1曲ずつ選び、「ここからやりやすい曲を選んでください」と伝えた。結果、4曲やってくれた。本当に感謝しかない。

Takuya Nagabuchiのステージは「流れもの」で幕開けた。黒いバンダナ姿の『JEEP』ツアー時の出たちだ。自分が初めて長渕のライブに行ったのはまさに『JEEP』ツアーだった。1990年12月11日国立代々木競技場。ベタな感想だが「本当に実在しているんだ」「同じ空気を吸っているんだ」などと思ったものだ。個人的にはこの頃の長渕がいちばんアーティストとして研ぎ澄まされていた時期であったと思っている。ドラマ『とんぼ』からの映画『オルゴール』でのダーティなイメージも板につき、どこか陰があって独特な鋭さがあった。歌番組で加賀まりこが「早死にしないで」などと言葉をかけていたが、それくらいカミソリのような鋭利さゆえの折れてしまいそうな危うさをも持っていた。そして、歌のキーの音域も広いのがこの時代の特徴だと思っている。Takuya Nagabuchiボーカルでいえば、“ロックバンド期”から“カリスマボイス期”のあいだにあるようないわば“プチカリスマボイス期”とでもいうべきだろうか。『NEVER CHANGE』ツアーから『JEEP』ツアーまでの時期に見られる、ある種の絶頂期。『JAPAN』からはしゃがれ具合が増した“カリスマボイス期”へと本格的に突入する。

「流れもの」は男臭い長渕流フォークロックの完成型だと思っている。ザクザクとしたストロークに合わせての吐き捨てるような歌が最高だ。Takuya Nagabuchiは、リハの時から2番の落ち平歌とキメのタイミングで何度も照明を確認していた。長渕ファンなら誰もがこだわりたくなるであろう、あの場所だ。

そこから「とんぼ」に流れていく。実際の『JEEP』ツアーでは逆の曲順であったが、あたかもそうであったように記憶がフラッシュバックしていく。私はギターのストラップをヘッド側につけていた時代が好きで、ギターを身体の中央に持ってくるように構えるシルエットが大好きだ。特に、YAMAH APX、“HUNGRY”モデル、Terry’s Terry、やはり黒いギターにYAMAHAの革ストラップは思い入れが強い。あの構えから繰り出されるストロークのタイム感、グルーヴは独特のものだと思っている。現在のボディ寄りの位置にストラップをつけるようになったのは2001年の『空』ツアー時からだが、あの頃からグルーヴが変わっていった。前ノリであり、なんというか言い方はあれだがせっかちな感じに変わっていった。やはり「とんぼ」は、独特のタメがあって、どこか斜に構えるように余裕たっぷりで歌われるのが好きだ。Takuya Nagabuchiはもちろん、あのときの「とんぼ」を歌ってくれた。ちなみに、Takuya Nagabuchi仕様の“HUNGRY”モデルは最高にカッコよかった。

「Don’t Cry My Love」は、数多くのバージョンが存在しているが「SUPER STAR」のB面バージョンが一番好きだ。ビデオ『明日へ向かって』のレコーディング映像のインパクトである。感情の赴くまま、そのすべてを叩きつけるような歌い方は、当時歌詞の意味はわからなかったが、子供ながらに強烈な印象を受けたものだ。この『STAY DREAM』制作時の頃の、癖がものすごく強いのにどこか人懐っこさを感じさせる歌い方は、長渕史上最も再現が難しいと思っている。アルバム『STAY DREAM』はほぼ一発録りに近い状態で収められたアルバムでもあるから、あのテンション感は本人ですら、2度とできないテイクであるだろう。しかしながら、そこはTakuya Nagabuchi。完全にものにしている。確か、コロナ禍一発目のツイキャスライブで、あの当時の革ジャンを着ての「レース」が印象的だった。あの曲こそ、ほぼ即興に近い状態でラジオ番組で歌われたものがアルバム1曲目に収録されている。さらにTakuya Nagabuchiはあの時に歌われた“友部正人をカバーする長渕”をカバーするということまでやってのけている。だから、Takuya Nagabuchiの「Don’t Cry My Love」が聴きたくてたまらなかったのである。言わずもがな、「Don’t Cry My Love」は素晴らしかった。




友部正人&長渕剛COVER「一本道」【ラジオテイクを再現】

余談だが、私は子供の頃に親が見ていた『親子ゲーム』で⻑渕剛を知った。最初はアーティストだとは知らずに、“おもしれー兄ちゃん”という認識。ただ主題歌の「SUPER STAR」をよく口ずさんでいた。のちにアーティストだと知り、「SUPER STAR」目当てで、アルバム『STAY DREAM』のカセットテープを親に買ってもらうも、「テレビで流れていたヤツと何かが違う……」と子供のうろ覚えながらに疑問符。レコードのドーナツ盤「SUPER STAR」を手に入れ、テレビで流れていたのはシングルバージョンだったことを知ったのは、それから大分経ってのこと。あのシングルバージョンがCD化されたのは、東芝EMI時代のシングルベスト『長渕剛SINGLES』がリリースされた1997年である。Takuya Nagabuchi曰く「カラオケには『STAY DREAM』バージョンしか入ってない!」。

話が逸れたが、Takuya Nagabuchiのライブの話に戻ろう。

打って変わって「素顔」からの「君は雨の日に」。初期ラブソングの隠れざる名曲2連発。言わずもがな「素顔」は2カポのEm(F#m)に限るし、「交差点」は近年の長渕ライブでも定番曲となっているが、まったくやっていない「君は雨の日に」。ファルセット真骨頂の後曲はTakuya Nagabuchiは大阪城ホール公演でストリートライブを2日間行っており、喉もいい感じだ。初期のレコードの澄んだ声というよりも、『SUPER LIVE IN 西武球場』といった趣でたまらなくよかった。

Takuya Nagabuchiは、弾き語りだけではないのが恐ろしいところだ。バンドアレンジも全ての楽器を演奏したオケをルーパーを使用しながら1人で再現する。本人があまり演奏することのない曲と言っていた「泣いてチンピラ」の盛り上げも圧巻であったが、なんと言っても「菊一輪の骨」だろう。12弦ギターの音色が和情緒とオリエンタルないななきを紡ぎだし、男の寂しさと訥々と歌う。そして、一気にバンドサウンドが流れ込む。リハーサル時より大きい音の洪水に会場にいる全員が息を呑んだ。

アンコールの「花菱にて」まで、含めて約90分のステージ。あらゆる長渕剛の時代を巡ったと同時に、Takuya Nagabuchiのアーティストとしての真髄を魅せつけられた夜だった。まだまだ聴きたい歌はあるし、話したいことも山ほどある。また一緒にこんなイベントができたらと心の底から思った。

来年、Takuya Nagabuchiは10周年を迎えるという。思えば、自分もライターとして活動を始めて来年で10年になる。

Takuya Nagabuchi オフィシャルリンク

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知られざるヴィジュアル系バンドの世界
冬将軍
星海社
Release: 2022/08/23

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