BUCK-TICKはなぜVHSでデビューしたのか BOØWY、米米CLUBとのビデオ戦争

櫻井敦司の眼力に殺されそうになる、『ROCK AND READ 097』でコラムを書いている。配信ライブ<魅世物小屋が暮れてから〜SHOW AFTER DARK〜>のためにリアレンジされ、シングル『Go-Go B-T TRAIN』にリアレンジされて収録された「JUST ONE MORE KISS」と「唄」のオリジナル版を紐解くという内容で、楽曲の聴きどころとリリース当時の様子と衝撃度を振り返る内容である。中でも「JUST ONE MORE KISS」といえば、“重低音がバクチクする”でお馴染みのビクターのCDラジカセ、CDianのCMタイアップ曲。これは当時、最新鋭AV機器の宣伝を自社の売出し中のバンドが担当とする構図であるが、これは欧米とは違い、オーディオ電機メーカーが母体となったレコード会社が作ってきた日本の音楽業界を象徴するものだ。

ちょうどこのBUCK-TICKが世に出た80年代末に、オーディオメーカーによる“ビデオ戦争”と呼ばれる争いがあった。いわゆる「VHS vs ベータ」に代表される家庭用VTR規格の覇権争いである。

この争いがBUCK-TICKおよび、当時のバンドのリリースに大きな影響を及ぼしていたのである。このことは上記コラムのほか、昨年発売になった『ROCK AND READ 091』の「バクチク現象」コラムでも少し触れているのだが、文字数もあって誌面では書ききれなかったことを含めてまとめてみたい。

BUCK-TICKはなぜVHSビデオでデビューしたのか

BUCK-TICKのメジャーデビュー作は1987年9月21日、ビクター音楽産業株式会社(当時)のインビテーションレーベルからリリースされた『バクチク現象 at THE LIVE INN』というVHSのライブビデオである。同年6月16日に今はなき、渋谷LIVE INNで行なわれた“バクチク現象II”の模様を収録したもの。映像作品のメジャーデビューは当時としても斬新なことであった。では、なぜBUCK-TICKは映像作品でのデビューとなったのか。

当時はまだ“ヴィジュアル系”という言葉はなく、そうした奇抜なメイクをしたバンドは“オケバン(お化粧バンドの略)”や“化粧系”などと呼ばれ、どこかイロモノとして見られていた。その中で、奇抜ながらもスタイリッシュにキメた美しいビジュアルと、アグレッシヴかつクールなライブパフォーマンスを誇っていたBUCK-TICKの比類なきセンスを知らしめるには、映像作品こそ相応しいという判断があったと思われる。当時の担当ディレクター、田中淳一氏によれば、アニメーション制作部が彼らに興味を持ったことが映像作品でのデビューを後押ししたという。ちなみに同氏は、同年11月21日にリリースされたセカンドアルバム『SEXUAL×××××!』が正式デビュー作であり、この『バクチク現象 at THE LIVE INN』は「プレデビューのような作品」だとも語っている。このことはBlu-ray/DVD化された同作のライナーノーツにある。

BUCK-TICKが映像作品でのデビューとなったのは、そもそも所属レコード会社がビクターだったことが大きい。『バクチク現象 at THE LIVE INN』はVHSのビデオテープでリリースされた。VHSはビクターが開発した家庭用VTR規格であり、BUCK-TICKがデビューした1987年は70年代後半から続く、“ビデオ戦争”の真っ只中だったのである。ビクターのVHSとソニーのベータマックス規格が家庭用VTR規格を争っていた。そのほかには、8ミリビデオ(ソニー他)、LD(レーザーディスク/パイオニア)、VHD(Video High Density Disc/ビクター)など、さまざまなメディアが乱立していた。そうした中で、レンタルビデオショップの普及もあって、覇権を取ろうとしていたのがVHSだった。

つまり、BUCK-TICKがVHSビデオでメジャーデビューすることは、ビクターが自社の開発したVTR規格で自社の期待の新人バンドをデビューさせる、という一大プロジェクトだったのである。

BUCK-TICK vs BOØWY vs 米米CLUB

このように、オーディオ電機メーカーのレコード会社が自社アーティストを自社メディアでリリースすることはビクターだけではなかった。ソニー系列のCBSソニーレコード(当時)所属の米米CLUBはデビュー当初から映像作品を重視していたが、VHSのみならず、ベータ、8ミリ、LDを併売していた。また、東芝グループの東芝EMI(当時)所属の当時人気絶頂を誇っていたBOØWYは、『バクチク現象 at THE LIVE INN』とほぼ同時期の1987年7月にリリースされたシングル「Marionette」において、CDとLDの技術を組み合わせて開発された新しい光ディスク規格、CDV(CDビデオ)を採用している。この「Marionette」がCD化されたのは、CDVリリースから約2年が経った1989年5月のことであるから(シングルCD=8センチCDの規格が世に出たのは1988年)、当時の東芝がいかにこのCDVに力を入れていたかがわかるはずだ。

こうしたビデオ戦争は、1988年にソニーが本格的にVHSビデオデッキの併売に踏みきり、事実上の市場撤退となって集結を迎えた(ベータの開発、販売自体は2002年まで続いている)。電機メーカー母体のレコード会社によって、リリースされるメディア形態が大きく変わっていた時代、1987年は“ビデオ戦争”の命運を決めた年だったのだ。

『バクチク現象 at THE LIVE INN』のリリース、BUCK-TICKのメジャーデビューとは“ビデオテープ=VHS”という図式を音楽方面から打ち立てた金字塔だったと言っていいのかもしれない。

バクチク現象 at THE LIVE INN
BUCK-TICK
ビクターエンタテインメント
Release: 2012/12/26

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