ヴィジュアル系っぽい音楽とは何か? ヴィジュアル系音楽構造を探る

アイドルメディア、Pop’n’Rollで連載しているコラム『偶像音楽 斯斯然然』で、前に以下のようなものを書いた。

ヴィジュアル系とアイドルは、ムーヴメント自体の特性として共通するところが多いのわけだが、楽曲やサウンドといった音楽性の部分においても同じ匂いを発していることが多い。いわゆるロック系のアイドルは、楽曲を作るクリエイターも、グループをマネジメントする運営にも、ヴィジュアル系のバンドマンやそこを通ってきた人間が多く居て、楽曲、メロディ、サウンド……いろんな部分からヴィジュアル系ファンの琴線に触れる部分が多くあるという話である。

コラム内でも触れているのだが、今回は音楽面における“ヴィジュアル系っぽさとは何か?”について、楽曲の構造やサウンド面からより深いところに迫っていきたい。

パブリックイメージとしての、ヴィジュアル系っぽさ

そもそもヴィジュアル系とは音楽ジャンルではないのだが、それっぽさ、パブリックイメージとしてのヴィジュアル系の音楽が存在していることは間違いない。ただ、2000年代のネオ・ヴィジュアル系の隆盛以降は多様性が増し、さらに近年はなんでもあり状態になってしまっている。ここでいう“それっぽさ”はヴィジュアル系の原点的なイギリスのニューウェーヴやポジパン、ゴシックロック影響下にある耽美や退廃美といった俗に厨二っぽいとも言われるものであり、90年代のヴィジュアル系および、その黎明期にあたる“黒服系”と呼ばれた時代に確立されたものだ。

ヴィジュアル系の音楽要素は、大きく以下の5つにあると考える。

<ヴィジュアル系音楽5大構成要素>
1. 耽美、退廃美の世界観
2. 刹那的な詞
3. 慟哭性のあるマイナーメロディ(泣きメロ)
4. 緩急のついたドラマティックな楽曲展開
5. ポップならずともキャッチー

この5大要素を踏まえ、音楽、サウンドはもちろんのこと、セールスや後発への影響力を加味して、ヴィジュアル系の音楽発展に大きく影響を与えた楽曲(グループ)、4曲を紹介しながら、ヴィジュアル系の音楽構造について考えていきたい。

ヴィジュアル系楽曲構造を語る上で欠くことのできない4曲

BOØWY「Marionette」(1987年)

BOØWYがバンドシーンに与えた影響は計り知れない。これまであったHR/HMやパンクでもなく、不良的なものでもないビートロックを確立し、人より目立つためのロックからカッコつけるためのロックを作り上げた。

そのBOØWYビートロック美学の完成型が「Marionette」だ。ノリの良い8ビートはシンプルで無駄がなく、マイナーメロディに乗せた横文字混じりの詞はスタイリッシュでクールさを印象付け、サビは誰でも口ずさみたくなるキャッチーさを持っている。どのバンドも当たり前のようにやっているJ-ROCKセオリーの雛形はBOØWYが作ったと言い切ってもいいだろう。

〈鏡の中のマリオネット 自分のために踊りな〉という歌詞は、マイナーメロも相俟って刹那的であるし、さらにギターリフのイントロも印象的だが、ボーカルメロと双璧を成す“歌えるギターフレーズ”というのもBOØWYの強みだ。

当時の流行だった“都会派”のスタイリッシュさは、BOØWYのイメージに重なるところがある。初期のどこか荒々しさと生々しさがあった音楽性も、アルバム『JUST A HERO』(1986年)で、無機質感を世界観として落とし込むことに成功している。『CASE OF BOØWY』をはじめとした無機質なアートワークも多い。「Marionette」はアニメが盛り込まれたミュージックビデオにて、近未来、無機質、退廃的な世界観を作り上げた。

ちなみにこの「Marionette」はシングルとアルバムではミックスが異なり、シングルのほうがデッドな仕上がりである。わかりやすいのはドアタマの台詞〈Clever-Clever〉にリバーブがかかっているのがアルバムVer.である(動画はシングルVer.)

BUCK-TICK「惡の華」(1990年)

BOØWYが確立したJ-ROCKバンドのセオリーをよりダークに、耽美性を与え、まさに“黒服系”と言わしめるものを音楽として明確にしたのはBUCK-TICKである。

BOØWY系譜のビートロックバンドでありながら作品を重ねるごとにダーク色を濃くしていき、独自性を作り上げてきた。そしてこの「惡の華」は、今日まで至るBUCK-TICKのバンドカラーを決定付けたものである。愛だの夢だのを歌った、バブル期のニューミュージックの中で(当時はまだJ-ROCKという言葉はない)、メインストリームとは離れた深淵の世界観を世間に示した。それは、アムロ・レイよりシャア・アズナブル、キン肉マンよりロビンマスク、星矢より一輝といった、正義の味方よりもどこか陰のあるダークヒーローを好む男の子チックな嗜好を揺さぶったのである。

「惡の華」は、BOØWY「Marionette」からの、マイナーメロと刹那的で退廃的な世界観をより強調したような曲だ。ダークなサウンドと〈遊びはここで終わりにしようぜ〉という挑発的な歌い出し〈狂ったピエロ〉〈キラメク ナイフ〉〈蒼い孤独〉という、後年の厨二っぽさに通ずる言葉選びを含め、「ヴィジュアル系っぽい、黒服系っぽい曲は?」と訊かれたら、ここまでそれをわかりやすく表しているような曲を私は知らない。むしろ、この「惡の華」こそがのちのヴィジュアル系基準曲になったと言っていい。もちろん、これよりダークな楽曲であったり、それこそイギリスのゴシックロックに影響を受けたアーティストもいるわけだが、マニアライクにならず、わかりやすくダーク性を提示しながらロックバンドのカッコよさを貫き、これほどまでにキャッチー性を持った曲は「惡の華」以外にはない。

LUNA SEA「ROSIER」(1994年)

BOØWYが確立し、BUCK-TICKが発展させたビートロックが主流だったシーンで、楽曲はよりダイナミックにドラマティックになっていく……そのきっかけはLUNA SEAである。

高低差が高く、慟哭性のある泣きメロが大袈裟すぎるドラマティックな楽曲展開とともに炸裂する。ジャパメタのようなアツさがありつつも、彼らなりのクールさによる昇華具合が絶妙な「ROSIER」。

変拍子や複雑なフレーズよりも、アンサンブルがピタッと止まるブレイク、そして畳みかける急展開が聴く者を引きずり込んでいく。クールな平歌から一気に駆け上がるサビ、セリフ混じりの間奏から炸裂するギターソロ、ハーフダウンっぽく息ついたかと思えばそのまま2番へ。ラストはこれでもかというほど捲し立てていくサビ……。刹那的な詞、退廃美の世界観、慟哭性のあるマイナーメロディに加え、ロックバンドとしてのアンサンブルのカッコよさがこれでもかというほど注ぎ込まれた、一切隙のない楽曲だ。速弾きや変則的な調節技巧のような個人プレイを用いらず、バンドが一体となるスリリングなアレンジによって、キャッチーさを生み出すという手法だ。

LUNA SEAの登場はビートロックが主流だったシーンを一変させた。

hide「ピンク スパイダー」(1998年)

そして海外の前衛的なマニアライクな部分は、hideがキャッチーに噛み砕いた。

「ピンク スパイダー」はポップとはほど遠い、ゴリゴリのヘヴィミュージックであるにも関わらず、サビの〈ピンクスパイダー「行きたいな」〉というキメフレーズは1度聴いただけで覚えられるはず。アウフタクト(弱起=1拍目より前から始まる)から半濁音の破裂音〈ピン〉で入るところもものすごくキャッチーで、老若男女、歌唱力問わずに誰でも口ずさむことができるキラーフレーズである。でなければ、事故の影響は別としても、ミリオンヒットを出すことなどできなかったはずだ。

オルタナティヴロックから、日本独自のミクスチャーロックへと流れていく渦中の楽曲であり、少々マニアライクであったインダストリアルや、モダンヘヴィネスと呼ばれるヘヴィミュージックをわかりやすく日本語ロックで噛み砕いた。サビは先述のように、アニメ主題歌にもなりそうなほどキャッチー性があるのに、Cメロの流麗さは90年代初期からの黒服系譜を感じられる部分でもあり、hideの「カッコよければ何でもアリ」という思想をよく表している楽曲である。

この楽曲の登場以降、ヘヴィミュージックにならずとも、低音弦のヘヴィのリフを用いる楽曲がシーンに増えた。ゴリゴリヘヴィなイントロから歌に入ると、「あれ?」みたいな。

* * *

今回はわかりやすい4曲でその時代による影響力からヴィジュアル系音楽の構造を見てきたわけだが、共通して注目すべきは<ヴィジュアル系音楽5大構成要素>5の“ポップならずもキャッチー”というところ。“ポップならずキャッチー”というのは、乱暴な言い方をすれば売れ線に走らないということであり、“ポップ=大衆性”と“キャッチー=覚えやすい”はまったく別だということである。大衆性、万人受けを狙わなくとも覚えやすいものは作れるということである。このことは、よくhideがTHE MAD CAPSULE MARKET’Sを指して「楽曲のどこかしらが必ずキャッチー」と言っていたのが印象的であった。

ヴィジュアル系自体がメインストリームとは言えないものであり、それこそダークヒーローのようなものだ。だからこそ自由度があって面白いのである。

逆襲の<ヴィジュアル系>-ヤンキーからオタクに受け継がれたもの
市川哲史
垣内出版
Release: 2016/08/05

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